2011年に「エンディングノート」という映画が公開され、「終活」という言葉もよく耳にするようになりました。国境なき医師団が発表した「終活と遺贈に関する意識調査2016」※1に、エンディングノートを準備をしておくことは大事だと感じるが、自分には(まだ)必要がないと思う人60.9%、準備をしておくこと自体、不要だと思う人が10。5%というデータがあります。幅広い世代にエンディングノートの大切さが浸透してきてはいるものの、実際に書いている人はまだ少ない事が伺えます。
エンディングという名前から、自分とはまだ関係ないことだと思う方も多くいらっしゃると思います。自分よりも親にエンディングノートを書かせたいと思っていらっしゃるかもしれません。しかしエンディングノートを書く時期に決して早すぎるということはありません。人間は生まれた瞬間から死に向かって歩き出しているのです。誰しもが迎える死を自分のものとして考えることは、生きてきた過去と、生きている現在と、生きていく未来を考えることにも繋がります。今後の人生をより豊かなものにしていくためのツールとして、まずはご自身のエンディングノートを書いてみませんか。
エンディングノートとは
エンディングノートとは、意思疎通が難しくなったり体が思うように動かなくなった時に、周囲の人に自分の意思を伝えておくために書くものとされています。遺言と違い法的な拘束力はなく書式や形式も自由です。ノートでなくともパソコンに文章を保存しても良いのです。市販品は1000円~2000円前後で購入できますが、葬儀屋や各自治体で無料配布もしています。項目に従って記入していくだけでいいように工夫されていますので入手してみると取り掛かりやすいかもしれません。
それを基に、どんな情報を残したくて残したくないのか、ノートの項目自体が本人オリジナルの物にどんどん変化してくると思います。エンディングノートは、常に書き換えていけるものです。本来のエンディングノートは書いたことを周囲の人と共有しておかねば意味がありませんが、最初は人に見せないつもりで書いてみたほうが自分と向き合えていいかもしれません。
葬式に来てほしくない人!?
日本葬祭アカデミー教務研究室の代表二村祐輔氏は解説付きのエンディングノートの出版準備をすすめるなかで面白かったこととしてこんなエピソードにふれています。お葬式に対する希望を記入する欄について、知らせる相手の連絡先などを書き込む表を記載していたところ、多くの方から、「知らせる必要のない人」あるいは「お葬式に来てもらいたくない人」の表を作ってほしいというという要望があった※2というのです。
実際に自治体で無料配布されているエンディングノートにも、相手によって知らせないという選択を記しておけるものがあります。葬式に来てほしくない人とも、付き合い続けないといけない様々な事情もあると思います。考えさせられますね。
このように、一つの項目に向き合うだけでも、自分の終焉の時を想像し、今現在から未来に向けて、どのような人と付き合っていこうかと考えを巡らせることになる、それがエンディングノートです。
※2 二村祐輔著「自分らしい逝き方」新潮社、2006年、p135
死生観を考えるきっかけに
人は必ず死にます。死に対して恐怖心を持っている方もいるかもしれません。核家族化が進み自宅で家族を看取る経験も少ない今、死をリアルで身近なものとして感じることも難しくなっているとも言えます。死とはどういうものなのか、様々な宗教が死について説いていますが、宗教離れの進んだ昨今ではこれもピンときません。死について考えることは、現代人にはますます難しくなっているのかもしれません。ただ、死について考えること、それは結局どう生きるかを考えることにつながります。これを死生観といいます。生きている今をよりよく生きるために、死を考える。エンディングノートを書くことによって、自分自身の死生観を見つけることが出来るかもしれません。
エンディングノートを書いてワクワクしよう
漠然と考えるのではなくノートに書くことで、考えが整理され具体的になります。趣味を再開したり、昔断念したことにトライするきっかけになるかもしれません。訪れたかった観光地に行くのもいいですね。通帳の整理、昔の写真や日記の整理、クローゼットの整理、しなければならないと思いつつ先延ばしにしていた断捨離に着手することもできます。最後の時に感謝を伝えたい人に、日頃から感謝を伝えることができます。葬儀に来てほしくないと思う人との関係性を考え直すこともできます。
エンディングノートを書くことによって、改めて自分の人生にとって大切にしたい物や人が見えてきます。人生は限られています。何に時間や労力をかけるべきか優先順位が明確になると人生がより良い方へ向かいそうでワクワクしませんか。
親に書いてほしい人は、まず自分が書く
親にエンディングノートを書いてもらいたいと思いながら、言い出せないでいる人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。自分が書いてみることで、親に上手に勧められるヒントが得られるかもしれません。まずは自分の書いたエンディングノートを見せて「私、こんなの書いたんだけどどう?」とみせてみるだけでも説得力がありそうです。決して縁起が悪いものではないことが伝わるのではないでしょうか。
参考文献
- 北村香織編「小さなお葬式」小学館、2006年
- 小谷みどり著「今から知っておきたいお葬式とお墓45のこと」家の光協会、2013年
- 浅野まどか「ありがとうの気持ちを込めて葬儀・法要・お墓・相続がわかる辞典」西東社、2009年