お墓を建てる際、墓石を石材店から購入することになりますが、思わぬトラブルに見舞われてしまったという話をたびたび耳にします。今回は、なぜ墓石購入時のトラブルは起こりがちなのか(業界特有の事情に起因することが多い)、トラブルの事例、未然に防ぐための対策などを紹介したいと思います。
石材店とのトラブル事例とその対策
1.石材店とのトラブル事例
墓石の購入にまつわるトラブルは珍しいものではなく、ここ数年は国民生活センターへの相談件数が1年あたり1,300件台で推移しており、減る様子はなさそうです。墓石購入にまつわるトラブルは意外と身近な問題であることがうかがえます。
参考:墓・葬儀サービス(各種相談の件数や傾向)国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/sougi.html
トラブル事例には、さまざまなものがありますが、なかでもよく聞かれる事例として次のようなものが挙げられます。
ぼったくりにあう
墓石を購入しようと見積もりを依頼した際、「同じようなお墓を建てた知り合いから聞いていた金額よりも明らかに高額だった」という話を聞くことがあります。一生のうちに何度も購入することはまずない石材。その価格相場は一般の人には掴みにくいため、足元をみて見積金額を本来の価値にそぐわぬ高額な設定で提示してくる業者もいるようです。また、ほとんどの民営霊園や寺院墓地では後にも触れる「指定石材店制度」が用いられており、他社との相見積もりをとることができないという制約があります。それをいいことに強気の価格を提示してくる業者も存在するようです。
石材店の変更ができない
担当者の態度が好ましくなかったり、提示価格が高すぎたりといった理由で取引する石材店を変更しようとしても、民営霊園や寺院墓地の場合には認められないケースがあります。このトラブルも、「最初に担当した業者からの変更は認められない」という指定石材店同士の取り決めがあることに由来しています。
墓石の材質や使用量が異なる
一般の人には墓石の品質や産地を見極めたり、使われている量を計算したりすることなどが極めて困難なため、そこに付け込まれて詐欺被害にあったという相談も国民生活センターや各地の消費生活センターに数多く届けられているようです。具体的には「発注した石材よりも安価なものにすり替えられていた」「相談なく高級な石材に変更したといわれ、追加費用を請求された」「本来使用すべき量よりも少ない量で施工された」などといった事例が見受けられます。
墓石の購入にまつわるトラブルには、これら以外にも「彫刻の書体や墓石の加工処理が依頼していたものと違う」「施工の日程が遅れる」「代金の支払い条件が発注時と異なる」などといった例があります。
2.トラブルを生む要因は?
指定石材店制度
先に触れたように、墓石購入にまつわるトラブルの種になりがちなものとして、ほとんどの民営霊園や寺院墓地でとられている「指定石材店制度」があります。「指定石材店制度」とは、お墓を建てる際に霊園や寺院が指定した石材店以外では墓石を購入できない取り決めのことです。1つの霊園で複数の指定石材店がある場合でも、指定石材店同士で「基本的に霊園見学時に最初に案内を担当した石材店が販売まで一貫して担当する」、「顧客は一度担当となった石材店を変更することができない」などの約束が交わされています。つまり買い手側の自由を妨げるいくつかの制約があり、これが多くのトラブルの元になっています。
知識や意識の欠如
指定石材店制度以外にも、墓石購入に関する買い手側の知識の乏しさを突かれて、石材店側のいいなりになり墓石代がかさんでしまうケースもあります。また、お墓の建立を頼んだ後、定期的な進捗のチェックを怠り、進行を石材店に任せっきりにしていたがために工期が遅れてしまうなど、買い手側の意識や関心の低さが起因してトラブルに発展していく例もあるので注意が必要です。
3.トラブルを招かないための対策
ある程度の知識をつけておく
無用のトラブルを避けるために、消費者としては、石材店とは適度な緊張感を保って付き合っていくのが理想です。そのためには墓所や墓石の購入に関する最低限の知識を備えていなくてはなりません。お墓を建てたことのある友人や知人から話を聞くほか、霊園の見学に出向くよりも前に相場などをインターネットでしっかり情報収集しておくことも有益です。日本石材産業協会が主催する「全国お墓なんでも相談室」を利用するのもおすすめです。
参考:全国お墓なんでも相談室(一般社団法人 日本石材産業協会)
http://ohaka-madoguchi.com/conference/
契約書や覚書を交わす
墓石購入の際には、一般的に契約書を交わす手続きが取られます。契約書を交わしておくことで、双方で共通の認識が持てるようになり、トラブルが生じた際には書面による証拠として拠り所となります。契約書を交わすことに抵抗するような石材店は将来的にも安心して付き合っていくことができないので、避けた方が無難です。
契約書の内容として明記・確認しておくべきは、
- 代金の金額や支払い方法
- 納期
- 発注した石材の種類と量
- 文字の彫刻や加工の依頼内容
- 違約時の取り決め
などが挙げられます。
より詳細な取り決めや追加の決定事項などがあれば、「別紙」という形でまとめることもあります。契約前に内容をしっかり理解し、わからないことがあればきちんと石材店に確認しましょう。誠実な石材店であれば真摯に対応してくれるはずです。
契約書、別紙ともに双方の割り印を押して、一緒に閉じておくようにしましょう。併せて、石材の「産地証明書」や「保証書」なども可能な限り入手しておくと安心です。
信頼できる石材店を見極める
安心してお墓を建て、維持していくためには、信頼できる石材店の存在が欠かせません。
お墓を建てた後も代々付き合っていくことになる石材店は慎重に選びたいものです。その見極め方としては、石材店のこれまでの実績が一番の参考になるでしょう。長い年月多くの人たちに選ばれ続けてきた石材店にはそれなりの理由があるはずで、実績はそのまま信頼の証といえます。とはいえ自身との相性などもあるので、不安な場合は候補となる石材店に事前に連絡を取り、「墓石についての相談」という形で接触してみてもよいかもしれません。
霊園や墓地よりも、先に「石材店」を決める
多くの民営霊園や寺院墓地では、先に紹介した「指定石材店制度」があるため、意図している石材店からの購入ができなくなったり、思い描いていたデザインのお墓が建てられなくなったりする懸念があります。トラブルなくお墓の建立を進めるために信頼できる石材店を探すのであれば、お墓を建てる霊園や墓地を探す前にまず石材店にアプローチしましょう。石材店は墓石の購入に関する相談に乗ってくれるだけでなく、自社が指定石材店となっている霊園や墓地から条件に合ったところの紹介もしてくれるので、トータルサポートをしてくれるパートナーとして頼りになります。
4.お墓に関する悩みの相談窓口
お墓の購入に関する悩みやトラブルが生じた場合、頼りになるのが専門的な知識を備えた団体の相談窓口です。
お墓の窓口
一般社団法人日本石材産業協会が運営するお墓に関する総合相談窓口です。トラブルにまで発展していない問題や墓石購入に際しての不安事項がある場合にも対応してくれます。webサイトのフォームのほか、電話やFAXによる相談も受け付けています。
参考:お墓の窓口(一般社団法人 日本石材産業協会)
http://ohaka-madoguchi.com/
国民生活センター・消費生活センター
実際にトラブルに発展してしまったり、トラブルになる気配があったりするような場合には、独立行政法人の「国民生活センター」や自治体が運営する「消費生活センター」に相談するのがお勧めです。過去に数多くの事例を扱ってきているので、それぞれの事例に即した対応策を教示してくれるでしょう。
参考:墓・葬儀サービス(各種相談の件数や傾向)国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/sougi.html
なかにはお墓トラブルに強い弁護士もいるので、上記の団体で問題が解決できない場合には探して相談してみるのもひとつの方法となります。