宗教者を呼ばず、宗教とは切り離した儀式として執り行う葬儀スタイル「無宗教葬」。この記事では、まだなじみの薄い無宗教葬についてわかりやすく解説いたします。
参列者として無宗教葬に参列する場合はこちらをご参照下さい。
1 無宗教葬とは
無宗教葬とは、宗教的な儀式や要素を排除し、僧侶や宮司や神父といった宗教者も招かずに執りおこなう葬儀のことです。「自由葬」とも呼ばれています。
日本では仏教寺院が葬儀や死者の供養を担うことが今でも多数派ですが、無宗教葬では僧侶がおらず、読経や焼香といった作法もせずに故人を送り出します。読経に代わるものとして献奏や弔辞、焼香に代わるものとして献花がよく選ばれています。また、祭壇をはじめとした空間演出も自由にできます。故人の思い出を形にした花祭壇、愛用品の展示なども、葬儀社と打ち合わせをしながら決めていきます。
2 増えている無宗教葬
無宗教葬は増加傾向にあります。葬儀社アーバンヒューネスが行った調査「お坊さんをお呼びしない葬儀の割合」では、無宗教葬の割合が10年で2倍に増加しているとのことです(※)。同社が施行した16,000を超える件数のうち、無宗教葬の割合は2008年が12.2%だったのが、2018年では24.4%にも及んでいます。
どうしていま、無宗教葬が増えているのでしょうか。その理由をさまざまな角度から考察してみますが、その前提として仏教寺院が葬儀を担ってきた背景をおさらいします。
3 慣れ親しんだ仏式葬儀ではあるが…
日本人は元来、特定の宗教への信仰心に無自覚な国民性だと言われています。なんとなく神社やお寺にお参りする程度の、ゆるやかな宗教性が特徴です。仏教の中にもたくさんの仏さまと複数の宗派があります。また神道では八百万(やおよろず)と呼ばれるほどの神様がいて、これらが違和感なく共存している日本は、多神教の社会です。
日本人が死者供養を仏教に求めたがる現象の好例は明治初期に見られます。明治新政府は神道の国教化のために神仏分離の方針を打ち出し、葬儀の形もこれまでの仏式ではなく神葬祭にむりやり改めようとしました。しかし実際には神葬祭はまったく定着せず、政府の方針はまもなく頓挫してしまうのです。民衆にとって仏教による葬儀や供養が社会に浸透しきっていたからです。仏教に対して特定の強い信仰心があるわけではないものの、私たちの生活の中で仏教を基盤とした儀礼や死生観はなくてはならないものになっていたのです。
無宗教葬が増えているとはいえ、今現在でも約7割から8割の人たちは仏式で葬儀を行っています。しかしそこに集う多くの人が、仏教を厚く信仰しているのかというと、必ずしもそうではありません。「慣習に従って」という人が大半だと言えるでしょう。
4 無宗教葬が増えた理由
無宗教葬が増えたのは、単純に仏教などへの宗教心が薄れた、ということでもありません。家族や社会全体の変化が、葬儀の多様化を押し広げています。明治政府の「無理矢理」でもなしえなかった仏式からの脱却が、今、社会基盤の根底の変化で起こっているといえます。
寺離れ
お寺と家のつながりを「檀家制度」と呼びます。お寺(菩提寺)とそれを支える家(檀家)の関係によって成り立つもので、江戸時代に始まり、現代でもなお続いています。檀家の葬儀や供養は必ず菩提寺が行っていました。しかし、人口の都市への流出や、少子化による世代をまたぐお寺との付き合いの希薄化などで、葬儀の時でもお寺を不要と考える人が増えていったのです。
親と子と孫が別々の場所に住むのが当たり前の現代は、家の中でお寺や仏壇などの先祖供養を受け継ぐ機会が大きく減少しています。お寺はその家の祖先を世代を超えてつなぐ役割がありましたが、それを必要としない人が増えているというわけです。
経済的理由―僧侶へのお布施が不要
無宗教葬にすることで僧侶へのお布施を用意しなくても済みます。「お布施の費用を節約したい」「あんなに高いお金を払う意味がわからない」といった声は実に多く耳にします。日本消費者協会が実施した「第11回葬儀のためのアンケート調査」では、お布施の相場の全国平均は47万円だとしています。喪主にとっては費用の負担を大きく軽減できます。
個性重視―自分らしさ
故人らしさや自分らしさを全面に押し出した葬儀にするために無宗教葬を選ぶ人も多くいます。空間演出の面では、祭壇を華やかにしたり、式場内の装飾や音響も自由に決められます。またセレモニーの内容も、献花や献奏、スライドショーの上映、ブッフェ形式など、宗教的な制約がないためにどのような形を選んでも構いません。
5 無宗教葬でよく行われるプログラム
無宗教葬は、実際にどのような内容で執り行われるのでしょうか。その全てを家族が自由に決めてよいのですが、一から十すべてを葬儀に不慣れな家族がプロデュースするとなると、これはこれで大変なことです。従来から行われていた仏式葬儀の仏教的要素を排し、それに代わる儀礼を採用するという傾向が強いです。わかりやすいところでいうと、焼香に代わる献花、読経に代わる献奏や弔辞などがそれにあたります。無宗教葬で行われる具体的なプログラムを挙げてみます。
弔辞・お別れの言葉
読経に代わるものとして、弔辞やお別れの言葉があります。故人に向かって、生前の思い出を振り返り、感謝を伝えます。弔辞そのものは仏式の葬儀でも行われています。故人と親交の深かった人が読み上げますが、僧侶の儀礼の間に挟まれる形で行われるため、時間にも限りがあり、厳粛すぎる雰囲気になりがちです。一方、無宗教葬の場合は時間にも余裕があり、やわらかい雰囲気の中で行われるのが特徴です。代表一人ではなく、家族それぞれが、また子や孫が読み上げても構わないでしょう。小さい愛らしい子どもたちからのお手紙は、故人の生前の姿をよりあざやかに浮び上げてくれます。
献奏
故人が好きだった音楽を流し、参列者全員が拝聴します。ほとんどの葬儀式場には音響設備が設置されているため、CDや音楽データを葬儀社に預けて式場内で流してもらえます。セレモニー前後のBGMとするのもよし、セレモニーの中であえて時間を設けて深く聴き入るのもよし、また出棺の旅立ちの時にも故人の好きだった曲で送り出すこともできます。音楽は、無宗教葬を彩る上でとても重要な役割を果たします。また、実際にピアニストやバイオリニスト、さらには楽団を招いて生演奏をすることも可能です。音楽を中心とした無宗教葬のことを「音楽葬」と呼ぶこともあります。
献花
仏式葬儀の焼香に代わるものが献花です。祭壇前に置かれた献花台に、ひとりひとりが花を手向けます。よく用いられるのは白のカーネーションですが、希望があれば葬儀社に相談しましょう。
スライドショーの上映
故人の思い出の写真を編集したスライドショーを上映します。場内を暗くして、心に響く音楽を流しながらスクリーンに映し出される生前の姿に、参列者一人一人が故人との思い出をふりかえります。スライドショーの作成には複数の画像や動画のデータを葬儀社に提供しなければならず、葬儀社側も短時間でスライドショーを作成しなくてはなりません。事前に相談しておくことをおすすめします。
柩を囲んで談話や食事
式場中央に棺を安置して、家族や親族はそれを囲むような形で故人の思い出を語り合います。その場に食事を並べることも可能です。葬儀では、式場前面に祭壇を飾り、手前に棺を安置して、それに向き合う形で参列者が着座します。しかし無宗教葬では、祭壇の飾り方や座席の配置も自由にして構いません。
6 無宗教葬の流れ
無宗教葬がどのように行われるのか。流れの一例をご紹介します。
参列者は式場内の座席に座ります。
司会者が開式のことばを述べます。
故人に哀悼の思いを込めて、黙祷します。
故人の好きだった曲を流したり、生演奏をしたりします。
司会者が故人の経歴を読み上げます。
故人の生前の写真でつないだスライドショーを上映し、故人との思い出を振り返ります。
各方面から届けられた弔電を紹介します。
代表者が、故人に向けて弔辞やお別れのことばを述べます。
参列者ひとりひとりが献花台まで進む出てお花を手向けます。
棺の中の故人様と最後のお別れをして、出棺に臨みます。
喪主が参列者に御礼の挨拶を述べます。
司会者が閉式のことばを述べます。
複数人で柩を霊柩車まで運び、出棺します。
7 無宗教葬を行う上での注意点
自分たちらしい葬儀ができて、宗教者への費用も抑えられる。いいことづくめのように思える無宗教葬ですが、気をつけたい注意点もたくさんあります。
自由がゆえに、内容を決めるのが大変
無宗教葬は仏式葬儀のような決められた形というものがありません。祭壇の飾り付けやセレモニーの進め方など、葬儀社と打ち合わせをしながら進めていき、最終的な判断は自分たちで行います。故人が亡くなってから通夜や葬儀を執り行うまでには、通常1日から2日程度しか時間がないこと。加えて、無宗教葬は前例が多くないために、どのような形を希望しているか、具体像をしっかりと持っておかないと、満足行く葬儀の実現は難しいでしょう。
葬儀社選びが鍵
無宗教葬を満足いくものにするためには、信頼のおける葬儀社との出会いが大切です。僧侶という、葬儀を取り仕切る役割のいない葬儀である以上、セレモニーを演出、プロデュース、進行してくれるのは葬儀社です。もしも時間的に余裕があるのであれば、事前に複数の葬儀社に相談してみることをお勧めします。提案力と実行力のある経験豊かな葬儀社の選定が鍵になります。身内の方が亡くなってあとに、ゼロから葬儀のことを決めるとなると、家族の負担は相当なものです。葬儀社に想いを伝えながらお葬式を作っていく。そのプロセスこそが、故人への一番の供養になるのだと思われます。
物足りなさを感じる人もいる
仏式の葬儀で慣れている人が多いため、いざ無宗教葬を行ったとしても、満足感を得られるかは不透明です。してみたはいいもののなんとなく物足りなかったという声も 一部では耳にします。
親族や周囲の人たちから理解を得ておく
慣れない葬儀スタイルのため、家族や親族の中には不安や戸惑いを覚える人もいるかもしれません。苦言を呈されることも起こりえます。もちろん葬儀は喪主や遺族が主体的に進めるべきものですが、一方で葬儀は故人と関係のあった全ての人たちのためのものでもあります。特に大切な親族や関係者には、事前に無宗教葬で執り行う旨を伝えておきましょう。
葬儀後の供養をどうするか考えておく
通常の仏式葬儀であれば、故人の供養は葬儀だけではなく、その後の法事も仏式の方法・慣習に則って続いていきます。無宗教葬の場合、その後の供養をどのようにすべきか悩む人も多くいます。葬儀は無宗教葬でしたものの。やはり従来の形で納骨や各種法事などの供養をしてあげたいということで、結局お寺を探すという例も少なくありません。
お寺のお墓に納骨できないことがある
お寺の境内にお墓があれば、そのお寺の檀家であることがほとんどです。その場合、もしも無宗教葬で執り行った場合、納骨を受け入れてもらえないことがあります。お寺の墓地に納骨するのであれば、住職から戒名を授かるのが通例で、そうでなければ納骨を受け入れてくれないことがありえるのです。既に檀家であるお寺のお墓に納骨をする予定があるならば必ず確認をしておきましょう。