新型コロナウイルスに感染し亡くなった志村けんさんのご遺族が、火葬前に顔をみることもできなかったというニュースが出ていました(※)。実際に、新型コロナウイルスに限らず、感染症で亡くなった場合、火葬や葬儀はどうなるのでしょうか。弔いの際、制限を受ける感染症はどのようなものなのか。そして、火葬、葬式の内容はどのように変わるのか。具体的に説明いたします。
感染症で亡くなった際の火葬と葬儀 ―新型コロナウイルスでは対応が特別?
新型コロナウイルスに感染し亡くなった志村けんさんのご遺族が、火葬前に顔をみることもできなかったというニュースが出ていました(※)。実際に、新型コロナウイルスに限らず、感染症で亡くなった場合、火葬や葬儀はどうなるのでしょうか。弔いの際、制限を受ける感染症はどのようなものなのか。そして、火葬、葬式の内容はどのように変わるのか。具体的に説明いたします。
1 火葬、葬儀の際特別な対応が必要となる感染症
感染症は罹患した場合の重篤性や、生命への危険度の高い順で一類~五類に分類されています。火葬、葬式で影響があるのは以下の一類、二類、三類の感染症、さらに、新型インフルエンザ、新型コロナウイルスです。
一類感染症
- エボラ出血熱
- クリミア・コンゴ出血熱
- 痘そう
- 南米出血熱
- ペスト
- マールフルグ病
- ラッサ熱
二類感染症
- 急性灰白髄炎(ポリオ)
- 結核
- ジフテリア
- 重症急性呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る)
- 中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロ ナウイルスであるものに限る。
- 鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)
三類感染症
- コレラ
- 細菌性赤痢
- 腸管出血性大腸菌感染症
- 腸チフス
- パラチフス
2 そもそも何故、遺体に注意が必要なのか
人が亡くなればウイルスも死滅しないのか?そういう疑問も湧きますが、例えば結核の場合、遺体の中で長時間生き続け、遺体の向きを変えた際、衣服の着脱の際、納棺の際に目や鼻などから放出されることがあるそうです。B型肝炎はとりわけ危険性が高いそうで、通常7日以上生存するため、葬儀社によっては従業員に対してB型肝炎の予防接種を義務つけている場合もあるとのこと(※)。
また、感染症以外が死因であったとしても、こうした危険な感染症を遺体が保持している可能性はあります。葬儀従事者はそれを踏まえて、常に使い捨てマスク、ゴム手袋を着用し、うがい、流水での手洗い、アルコール消毒などを行い遺体の取扱いを行っています。
3 遺体からは感染しない感染症
感染症だからといって全てが危険というわけではありません。遺体から感染しない感染症の例を挙げておきます。
肺炎、ハンセン病(らい病)、髄膜炎菌感染症、破傷風、菌血症、敗血症、A型肝炎、成人性T細胞白血病、狂犬病、クラミジア感染症、梅毒、ワイル病、真菌感染症など。
4 一類感染症で亡くなった方の火葬
墓埋法(墓地、埋葬等に関する法律)により通常日本では死亡診断書に記載された時刻から24時間以内に火葬することは禁止されています。蘇生の可能性がないことを確認するためです(※1)。しかし、一類、二類、三類感染症、新型インフルエンザなどの場合、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(※2)により、死後24時間以内に火葬「できる」とされています。
また、厚生労働省の通達「一類感染症により死亡した患者の御遺体の火葬の取扱いについて」(※3)にてガイドラインが示されており、一類感染症については特に「24時間以内に火葬するものとする」とあり、24時間以内の火葬が必須といえます。二類、三類は「火葬」は必須ですが、24時間以内である必要はありません。
遺体の移動についても制限があります。一類感染症の場合、病院から火葬場以外の場所には移動することは制限されます。遺体は病院であらかじめ覆われ密封され、非透過性納体袋に入れられた後、消毒を施され、棺に納められます。この状態で火葬場に搬送され、そのまま火葬されます。
つまり、遺族が炉を前にして故人の顔を見てお別れをすることはできません。棺の中にお花を手向けることもできないと考えられます(※4)。
亡くなった方の顔を見たい場合は、病院で納体袋に入れられる前であればかなう可能性があります。しかしその際はもちろん、遺体に触れないよう、充分に注意する必要があります。
火葬を行う場所もどこでもいいというわけにはいかず、対応可能な火葬場が定められています。感染予防のため点検口やデレッキ挿入口の開閉といった作業が少なく済む火葬炉の多い火葬場が望ましいとのことです(※3)。
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(※1)新訂 逐次解説 墓地、埋葬などに関する法律[第3版]/生活衛生放棄研究会/第一法規株式会社
5 新型コロナウイルスで亡くなった方の火葬
新型コロナウイルスで亡くなった方の遺体の扱いについては、2020年3月31日現在、厚生労働省がQ&Aとしてホームページに情報を出しています(※)。24時間以内に火葬できるとされていますが必須ではありません。ただし遺体は非透過性納体袋に入れて搬送することが望ましいとあります。
一類感染症では、火葬前に遺族が遺体に触れることを禁じていましたが、新型コロナウイルスの場合はその点も異なります。厚生労働省の指導では、「火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等に手袋等の着用をお願いしてください」とあります。素手で遺体を触ることはできないようですが、手袋などを着用すれば遺体に直接触れてお別れするこができるようです。厚生労働省の情報をもとに、葬儀社・火葬場にしっかり確認をしておくとよいでしょう。状況は刻々と変わっておりますので、常に最新の情報を得るようしてください。
6 感染症の際の葬儀社選び
新型コロナウイルスで亡くなった男性を火葬する際、業者にちゅうちょされ、霊きゅう車の利用を拒まれ、別の車両で火葬場まで搬送したという記事がありました(※)。遺族の方にとっては余計に悲しみが大きくなる出来事だったことでしょう。しかし、どんな場合でも正しい専門知識と技術をもって、できる限り故人に敬意を払って弔いを手助けするのがプロというもの。こういう時にこそしっかり遺族をサポートし、お見送りしたいという、葬儀社としてのプライドを忘れない葬儀社も多くあります。
実際に新型コロナウイルスに対しての対応をインターネット上で発信している葬儀社も少なくありません。感染症で亡くなった方の葬儀は、そのようなケースでも誠実・確実にプロの仕事をしてもらえるかという視点で葬儀社を選びましょう。
7 感染症の方の葬儀
感染対策が必要な感染症で亡くなった方の葬儀の場合、火葬を行い遺骨にしてから葬式、告別式を行うケースがありえます。火葬後の葬儀は前火葬や骨葬とも呼ばれており、東北地方などでは感染症ではない通常の葬儀でも特別なことではありません。通夜ですら火葬後に行うケースもあるようです。感染症ではなくても、事件、事故による死亡などは遺体の状態が悪く、長期間安置できず、葬儀の前に速やかに火葬せざるをえないこともありますし、海外で亡くなった場合は現地で火葬してからお骨の状態で連れて帰り、後に葬儀をするということもあります。
火葬後の葬儀の場合、葬儀を行う場所や日程を選びやすく、ゆっくりと準備を整えられるというメリットもあります。感染症で亡くなる場合、感染してから短い期間で亡くなる方も多く、遺族の方も心の整理ができないことと思います。心の慰めのためにも、ゆっくりできる時期に、落ち着ける場所を探してお別れの会という形で見送っても良いのではないでしょうか。
感染症が死因でなくても、衛生面の管理は葬儀社にとっては大切なこと。 どんな場合でも、故人や遺族のために丁寧に安全に葬儀を取り仕切ってくれる葬儀社であってほしいですね。一般人としては法律に基づいて火葬まで十分に管理されているので、無用に騒いで遺族の心を傷つけないようにしたいものです。