霊園や墓地に建てられているお墓は、その形状から和型と洋型に大別できますが、昨今はこれまでの墓石の概念にとらわれない「デザイン墓」と呼ばれる自由な形状のお墓も多くみられるようになってきました。お墓の建立にはある程度まとまったお金がかかるうえに、代々引き継がれて長く使われていくものなので、その見た目にもこだわりたいもの。今回は、お墓を建てる前に知っておきたい墓石の形状について紹介します。
和型・洋型・デザイン墓石の特徴とメリット・デメリット―角柱だけではない、実はバリエーション豊かな墓石のかたち
1. 和型
直方体の石材を積み重ねた、縦長のお墓で、芝生墓地以外では最も目にすることの多い、わが国のスタンダードともいえる形状の墓石です。
構成としては4段に積み重ねたものが一般的で、下から芝台、中台、上台、最上部に縦長の棹石となっています。基本構成となるこれらの石材のほかに、境界石(外柵)、水鉢、花立て、香立て、卒塔婆立てなども併せて作ることが多く、スペースに余裕があれば、さらに墓誌や物置台などを設置する場合もあります。棹石の正面には、「○○家之墓」「先祖代々之墓」(宗派によっては上部に梵字などを刻む場合も)などの文字のほか、「南無阿弥陀仏」など、宗派のお題目を刻むことが一般的です。
スタンダードな和型の墓石
また、それぞれの石材の肩部分などに特別な加工を施しているものも多くみられます。お香を入れる香箱のフタの形状を模した竿石の香箱加工や、亀のお腹のような曲面が美しい上台の亀腹加工などがあり、見た目の品位を高めるだけでなく、水はけをよくして墓石の劣化を防ぐといった実用的な効果ももたらされます。これらの加工には、施した箇所や範囲、内容に応じて費用と時間がかかってしまうほか、地域や宗派によって差がみられることがあるので、自身が建てようとしているお墓に加工を施す際には石材店によく確認するとよいでしょう。
和型のお墓はもともとお釈迦様の遺骨を納めた仏舎利塔やインドから伝来した五輪塔を簡略化したものであることから、縦長の塔のようなシルエットとなっています。これまでに長い伝統を経てきていることからも分かるように、流行に影響されることのないスタイルがメリットとして挙げられる一方、デメリットとしては、使用する石材の量が洋型と比較すると多くなるため、価格が高くなる傾向がある点が挙げられます。
和型のお墓のバリエーションとして、現在の和型の墓石の原型ともいえる、五輪塔形式のものもあります。下から方形、円形、三角形、半月形、宝珠形の石が重ねられたもので、人と仏が一体となった概念を示し、鎌倉時代や室町時代に主流だった形態だといわれています。
そのほか、神道式の場合は、一般的な和型の墓石がベースとなりますが、棹石の形状や刻まれる文字に独自の特徴がみられます。まず、棹石の形状ですが、墓石の最上部が平らなもののほかにトキン型と呼ばれる角錐状になっているものもあるという点です 。また、棹石の正面に刻まれる文字ですが、神道でのお墓を意味する「奥都城」「奥津城」(おくつき) という言葉が用いられることが多く、「○○家奥都城」のように掘られています。
2. 洋型
西洋のお墓にみられるような、「オルガン型」などとも呼ばれる横長で奥行きの浅い形状の石材を用います。
芝生墓地でみられるほとんどのお墓に用いられているほか、近年は一般墓地でも目にすることが多いデザインで、「一般社団法人 全国優良石材店の会」(全優石)の調査によると、現在、新たにお墓を建てる人から最も多く選ばれているスタイルとなっています。特に首都圏での人気が高く、新しく立てられるお墓全体のうちの6割以上がこの洋型のお墓で占められています。
構成としては、下台の上に棹石を載せただけの一段型、もしくは棹石の下に中台を配した二段型が一般的です。高さを抑えた造りになっているため、お墓を前にしたときに視界が開かれて明るい印象を受けるほか、重心が低くて地震などの際に倒れにくいうえに、視覚的にも安定感が伝わってくるデザインだといえます。洋型の墓石にも、和形の墓石と同様に亀腹加工や水垂れ加工といった特殊加工を施したものがみられます。
スタンダードな洋型の墓石
シンプルな構成のため、比較的面積の狭い区画にも建てやすく、使用する石材の量が和型に比べて少なく済むため、購入の際に価格を抑えられる点がメリットといえるでしょう。仏教や神道などの宗教的な背景のない墓石の様式なので、刻む文字の自由度が高い点も特色のひとつとなっています。和型のお墓に多い「○○家」などの家名のほかにも、「心」「絆」「憩」などの漢字一文字や、「希望」「やすらぎ」「ありがとう」などの言葉、なかにはアルファベットで家名を刻んだものや、「Memories」などといった英語の言葉やフレーズを刻んだものまで多種多様なものがみられます。
3. デザイン墓石
ここ最近、年々人気を増しているのが従来のスタイルにとらわれないデザイン墓石と呼ばれるお墓です。2018年の「一般社団法人 全国優良石材店の会」(全優石)のアンケート調査によると、和型、洋型の墓石が前年に比べて縮小傾向であるのに対し、前年に比べてプラス16.2%の伸びを示しています。
墓石デザイナーと相談しながら完全にオリジナルなデザインを作り上げることもできますが、石材店があらかじめ用意したデザインのなかから選ぶ場合もあります。和型、洋型同様、石材を用いることがほとんどですが、なかにはガラスを使った透明なお墓も見られるなど、形状だけでなく、素材的にもオリジナリティを求めることが可能です。墓石に刻む文字も基本的に制限はなく、洋型のお墓にみられるような漢字やメッセージのほか、墓石のデザインを生かして外国語の文章などを用いているものもみられます。見た目が似ている墓石が多く並ぶ墓域のなかでひときわ目立つデザイン墓石のお墓は、個性を示すことができるうえに、お墓参りの際にみつけやすいという利点も備えています。
より自由なデザインが可能なデザイン型墓石
4. 地下カロートと丘カロート
墓石の形状を左右する要素のひとつとして、遺骨を納める納骨室であるカロートの位置が挙げられます。大別すると、お墓の地下部に設置する「地下カロート」と、地上部分に設置する「丘カロート」の2通りで、それぞれにメリットとデメリットがあります。
地下カロートは、納骨スペースを地下に作ることによって高さを抑えたお墓にできるため、圧迫感のないデザインにすることが可能です。ただし、地下に空間を設けることから湿気がたまりやすくカビが発生するなどのトラブルに見舞われる可能性があり、場合によっては雨水などの浸水を被る場合もあります。
納骨室を地下部に設置する「地下カロート」
一方の丘カロートですが、地下カロートと比べると狭いスペースでも設置が可能であり、納骨室に水や湿気が溜まる心配はほとんどありません。ただし、地上に納骨室を設ける分、高さを要するので威圧的な雰囲気になってしまいがちな点や、霊園や墓地が設けている高さの制限によって建てられないケースがある点などがデメリットとして挙げられます。
納骨室を地上部に設置する「丘カロート」
霊園や宗教の制限を調べてから
このように、墓石の形状にはバリエーションがあり、基本的に自身の好みで選ぶことができますが、景観上の理由で一定の高さを超えるお墓が立てられなかったり、寺院墓地のために和型の墓石以外は認められなかったりなど、サイズや種類が制限されている場合があります。また、宗教や宗派によっては、刻む文字や墓石の付随品についての決まりごとが設けられていることもあるので、よく調べたうえでお墓を建てるようにするとよいでしょう。