葬儀のあり方も多様化しています。平成に入ってからは「家族葬」が葬儀のスタンダードとなりましたが、宗教者を呼ばない「無宗教葬」を選ぶ人も増えています。慣れない葬儀スタイルである無宗教葬に参列するとき、私たちはどのような点に気をつけるべきなのでしょうか。この記事では、無宗教葬の通夜や葬儀に参列する際の、服装、持ち物、お香典やお供え、さらには弔意の示し方など、マナー全般について分かりやすく解説いたします。
喪主・遺族として無宗教葬を行う場合はこちらもご参考下さい。
1 無宗教葬とは
まずは、無宗教葬がどういうものなのかを簡単に確認しておきましょう。
1-1 無宗教葬とは
無宗教葬とは、仏教などの儀式や要素を排除し、また宗教者も呼ばない葬儀スタイルのことです。ただし、葬儀そのものが「弔い」という宗教的な行為といえるため、必然的に儀礼的な内容にはなってきます。儀礼を、仏教などの伝統的な宗教に頼ることなく、自分たちの手で自由に作り上げるのが無宗教葬、と言えるでしょう。無宗教葬は「自由葬」や「プロデュース葬」などとも呼ばれています。
1-2 仏式葬儀との違い
仏式葬儀と無宗教葬では、具体的に何が異なるのでしょうか。内容を自由に決めることができるとはいえ、ほとんどの無宗教葬では、仏式に代わるものとして次の2つを行います。
献奏
無宗教葬でよく行われるのが、献奏(故人の好きな音楽を流す)と弔辞です。仏式の葬儀において僧侶の読経をよく聞いてみると、そこには決められた抑揚や節回しといった「音楽性」があります。また、お経のことばの中には、故人をあちらの世界に送り出すため、そして遺された私たちを力づけるための「語りかけ」があります。無宗教葬では、この「音楽性」を担うのが献奏であり、「語りかけ」を担うのが弔辞といえます。
「献奏」は、故人の好きだった音楽を流すことが多いようです。あわせて、なぜその曲が好きだったのか、どのような思い出があるのかなど、流れる音楽に合わせて司会者が故人の生前のエピソードを語ってくれます。また、ピアニストやバイオリニスト、さらには楽団による生演奏を行うこともあります。
弔事
もう1つの無宗教葬のハイライトは「弔辞」です。故人に向けて読み上げる手紙、というスタイルがとられます。仏式葬儀での弔辞は僧侶の読経の間に行われるため、厳粛な空気がつきものです。一方、無宗教葬では「お別れのことば」などとも呼ばれ、比較的やわらかくあたたかい雰囲気の中で行われることが多いようです。故人と親交の深かった人たちによって、さまざまな想いが語られます。そこで語られる内容の多くは、生前の故人との思い出、あの世での冥福の祈り、そして遺された自分たちが力を合わせて生きていくことの確認などです。亡き人を送りだし、自分たちを力づけるという意味においては、そこに宗教の教えや死語観などの要素はないものの、僧侶の読経と同じような役目を果たしていると言えるでしょう。
献花
仏式葬儀では焼香をして参列者ひとりひとりが弔意を示しますが、無宗教葬ではほとんどの場合において献花が行われます。弔意を示す作法には神道の玉串奉奠や、キリスト教の献花がありますが、無宗教葬ではより洋風でモダンな献花が自然と選ばれていったのでしょう。
献花は参列者ひとりひとりが祭壇前まで進み出て、献花台に花を手向けます。献花の作法についてはのちほど詳しく取り上げます。
1-3 お別れの会との違い
無宗教葬とお別れの会。宗教者がいないという点において似ているようですが、両者には大きな違いがあります。
お別れの会は、先に近しい身内だけで葬儀や火葬を済ませたあとに、日を改めて対外的に親交のあった人たちを招いて執り行われるパーティー形式の会です。特定の宗教色を抑えたものが多いという点では「無宗教」的ですね。参列者は主に献花で弔意を示し、会食をしながら故人を偲びます。会場にはホテルやレストランが用いられ、明るい雰囲気の中で行われるのが特徴です。
一方の無宗教葬はあくまで葬儀ですので、不幸が起きた直後に行われ、あとに続く出棺と火葬を控えています。そのため、仏式葬儀ほどではないとはいえ、しめやかに執り行われる傾向にあります。
2 無宗教葬に参列する時の服装・持ち物
無宗教葬では、どのような服装で参列すればよいのでしょうか。詳しく解説いたします。
2-1 基本的な考え方は「通常の葬儀」と同じ
訃報や葬儀の案内を受け、「無宗教葬で執り行います」の一文を目にすると、きっと多くの人が「服装は?」「持ち物は?」と、考えてしまうことでしょう。しかし焦ることはありません。無宗教葬も葬儀に変わりないため、通常の葬儀の振る舞いをしておけば、まず遺族や周囲の人たちに対して失礼には当たりません。
2-2 喪服の種類
無宗教葬とはいえ、通常の葬儀と同じように喪服を着用しましょう。喪服とは、それを着用するだけで、故人への弔意を表してくれます。故人への哀悼と遺族へのはげましは、宗教や宗派を問わないものです。社会通念的に見ても、喪服を着用すれば、周囲への失礼にはあたりません。
喪服には以下の3種類があります。親族や参列者など、ほとんどの場合では準喪服を着用していればマナー違反にはならないでしょう。また、仕事などで忙しく、喪服の準備が間に合わないというのであれば、通夜に限っては略喪服でも構いません。
着用する人 | 男性 | 女性 | |
---|---|---|---|
正喪服 | 喪主・近しい遺族 | 和装・モーニングコート | 和装・ブラックフォーマル |
準喪服 | 喪主・親族・参列者 | ブラックスーツ | ブラックフォーマル |
略喪服 | 参列者 | 黒・紺・グレーのダークスーツ | 黒・紺・グレーなどのワンピース、スーツ、アンサンブル |
2-3 平服とは
もしも訃報や葬儀の案内の中に「平服でお越しください」と記されているのであれば、必ずしも喪服でなくても構いません。ただし、葬儀の場における「平服」とは、普段着のことではなく、上の表に挙げた略喪服がそれに該当します。ブラックフォーマルにする必要はないものの、黒や紺やグレーなどの地味目な色のスーツ姿がよいでしょう。故人を偲び、遺族をいたわるために参列するわけですから、あまり個性が出ないよう、十分に気をつけましょう。
2-4 小物やアクセサリーも控えめに
靴、ネクタイ、カバン、ベルトなどの小物も喪服にあわせて黒で統一します。平服の場合も控えめな色のものにしましょう。女性の場合はアクセサリーを身につける人もいますが、葬儀の場では結婚指輪や真珠のネックレス程度までで、それ以外のものは外しておきます。故人や遺族に配慮し、個性を表に出さないのが鉄則です。
2-5 数珠
数珠は仏具なので本来不要のはずですが、持っていれば念のために持参しておくとよいかもしれません。ほとんどの無宗教葬では献花を行いますが、中には焼香(仏教の弔いですね)を取り入れる無宗教葬もあります(それでは無宗教ではないのではという議論はおいておきます)。カバンやポケットの中に忍ばせておくと安心でしょう。なお、訃報や葬儀の案内の中で「数珠は不要です」と示されている場合は、持参しなくて構いません。
3 無宗教葬への香典やお供えのマナー
無宗教葬でも一般的に、香典やお供えはします。香典やお供えの習慣の中には「このお金で故人の好きだったものを供えてあげてください」「このお金を葬儀費用の足しにしてください」といったような思いやりや助け合いの精神が込められています。無宗教葬では宗派性を意図的に排除していることから、通常の作法との違いを押さえておきましょう。
3-1 香典
香典は不祝儀袋に入れます。白黒や双銀など、一般的な葬儀で使われるもので構いません。白の無地袋でもよいとされています。
表書きには「御霊前」と書きます。「御香典」でも構いませんが、無宗教葬では儀式の中でお香を用いないため避けられる傾向にあります。そして下段には差し出す本人の名前を書きます。
受付には、「このたびは誠に御愁傷様です」と、お悔やみの言葉を述べてから差し出します。このあたりは無宗教葬だからといって特別な違いはありません。
3-2 供花・供物
祭壇に飾るお供えのお花は、特に決まりはありません。ただし無宗教葬では仏式の要素を出さない傾向にあるので、従来の仏式葬儀のイメージのある菊よりは洋花で組まれたものの方がよいでしょう。施行の葬儀社に連絡すると、祭壇や会館に調和したお花を提案してくれます。
また、果物や缶詰などの供物、さらにはご進物の線香の詰め合わせなどをお供えしても構いません。
3-3 弔電
無宗教葬でも弔電を贈る慣習は変わりません。弔電にはさまざまな文例がありますが、そのほとんどは特定の宗教を想起するものではなく、どんな人に贈っても差し障りのないものばかりです。
3-4 献花
献花とは、無宗教葬の中で行われることの多いプログラムの1つで、参列者が順番に、1本1本の花を心を込めて祭壇に供えることです。一人ひとりが故人に弔意を示す場として、仏式の焼香に代わるとても大切な儀式です。献花では白のカーネーションを用いることが多いのですが、家族の希望によって別の花が使われることも多々あります。
献花の作法
献花は次のように行います。
- スタッフより花を受け取ります。このとき、右手で花の下を持ち、左手で茎の根元を受けから優しく押さえます
- 遺族に一礼して、祭壇前の献花台に進み出て、故人に一礼します。
- 花を時計回しに回し、茎が祭壇側、お花がこちらを向くようにして献花台に置きます。
- 黙祷、あるいは合掌をして、故人の冥福を祈ります。
- 一歩下がり、故人に一礼します。次に遺族にも一礼して、自席に戻ります。
3-5 お花以外に献じるもの
無宗教葬では献花以外にもさまざまな弔意の示し方があります。ローソクに火を灯す「献灯」、仏式葬儀と同じような「焼香」、さらには野球が好きだったからに野球ボールを献じるなどのオリジナリティあふれる作法も、無宗教葬ならではです。戸惑うこともあるかもしれませんが、スタッフの指示に従って故人に手向けましょう。
4 無宗教葬の流れの事例
無宗教葬には決まった形やマニュアルがないため、式次第はその家によって大きく異なります。ここでは、一般的な事例として、参列者がどのように振る舞うべきかを解説します。
スタッフの案内に従って、参列者は式場内の座席に座ります。もしも座席が満席であればロビーや式場の外で待機します。
司会者によって、開式が告げられます。
故人に哀悼の思いを込めて、黙祷します。
故人の好きだった曲を流れます。心静かに拝聴します。演奏者による生演奏が行われることもあります。
司会者が故人の経歴を読み上げます。
故人の生前の写真でつないだスライドショーを上映します。
式場に贈られてきた弔電を紹介します。
故人と親交が深かった人が故人に向けて弔辞やお別れのことばを述べます。
喪主、親族、参列者の順にひとりひとりが祭壇前まで進む出て献花をします。スタッフから手渡された花を献花台に手向けます。
親族が中心となって棺の中の故人様と最後のお別れをします。参列者も参加できます。
出棺に先立ち、喪主が参列者に御礼の挨拶を述べます。
司会者が閉式を告げます。
複数人で柩を霊柩車まで運び、出棺です。参列者は出棺を見送ります。
5 弔辞やお別れのことばを依頼されたら
もしも喪主や遺族から弔辞やお別れのことばを依頼されたら、可能な限り引き受けましょう。それによって、遺族の心は慰められ、故人も喜んでくれることでしょう。
無宗教葬での弔辞やお別れのことばは、通常の葬儀と比べて少し雰囲気が異なります。儀式ばったものではなく、アットホームな文面でも構わないでしょう。ただし、その無宗教葬がどういった空気感の中で行われるかによっても選ぶ言葉は異なってきます。大体の時間や文字数の目安も含めて、分からないことがあれば、喪主や葬儀社に直接相談しましょう。
無宗教とはいえ、故人を偲び、遺族を慰めるために参列することに変わりはありません。無宗教で葬儀をしたいと想う遺族の気持ちに寄り添うことが一番大切なことです。