日本の葬儀は仏教式がほとんどですが、中には神道やキリスト教式で行う人もいます。キリスト教の中でもカトリックは日本の全人口の0.3%ほどですが、ご友人やご親戚がカトリックで、カトリックの葬儀に参列する場合もあるでしょう。日頃慣れている仏教式の葬儀とカトリックの葬儀では、どのような違いがあるのでしょうか。今回は参列者が知っておきたいカトリックの葬儀の特徴や流れ、そしてマナーについてお伝えいたします。
カトリックの通夜と葬儀 ~参列者が知っておきたい葬儀の特徴、流れ、マナーなど~
カトリックの葬儀の特徴
カトリックにとっても死は悲しいことですが、「忌むべきこと」とは考えていません。死は故人の魂が天の神のもとに召される瞬間であり、この世からの旅立ちと考えています。そのため「死亡」と表現せずに「帰天」と表現をします。文字通り、天に帰った、という考え方です。故人が地上での生を終えて、天の神のもとで永遠の命を授かり、安らぐことを願って葬儀を行います。カトリックの葬儀で最も大きな特徴は、葬儀で「ミサ」が行われることです。ミサについては次項で詳しく解説します。
なおプロテスタントでは「ミサ」とは呼ばず、「聖餐式」を行います。またカトリックでは教会の指導者を「神父」「神父様」「司祭」と呼びますが、プロテスタントでは「牧師」「牧師先生」と呼びます。またプロテスタントでは集会中の歌を「讃美歌」と呼びますが、カトリックでは「聖歌」と呼ぶなど、両者には小さな違いがあります。
日本の風習に従い、カトリックでも通夜が行われます。名称は「通夜の集い」などと表現されます。仏教式と同様に日中の告別式に出席できない方は通夜に参加するとよいでしょう。また葬儀会場は故人またはご家族が所属していた教会が一般的ですが、それ以外にも葬祭場や葬儀スペースで行われることもあります。
またカトリックの葬儀は基本的に故人、もしくは喪主やご親族がカトリックの洗礼を受けた方の場合に行われます。どなたも信者ではないけれど、何らかの理由があってカトリックの葬儀を行いたい場合には、まず地元の教会司祭にご相談ください。
カトリックの「ミサ」とは
ミサという言葉を耳にしたことはあっても、実際に何が行われているかを知っている人はなかなかいないのではないでしょうか。ミサはカトリック教会で行われる、純粋な宗教行事です。キリストの死と復活を再現・記念し、復活の希望や信仰心を新たにするものです。通常は日曜日に「主日(しゅじつ)のミサ」が行われ、信者はミサに参加します。主日のミサ以外でもクリスマスや復活祭などの祝日にもミサがあげられます。ミサの流れを「典礼(てんれい)」と呼びます。ミサ典礼は自分の過ちを認め、神に許しを請い、神と和解し、新たな力をいただいて歩き出すという一連の流れになっています。
入祭の歌、司祭の入堂、回心の祈り、また集会祈願などの祈りによってミサが始まります。
旧約聖書と新約聖書からそれぞれその日のミサのテーマにあわせた箇所が朗読されます。続いて司祭による説教が行われます。その後、信仰を宣言する祈りと全世界や教会のための共同の願いを全員で唱えます。
パンとぶどう酒を捧げます。そしてパンがキリストの肉体に、ぶどう酒が血に変化するように祈ります。
主の祈りを唱え、感謝の典礼で準備したパンとぶどう酒を用いてキリストの「最後の晩餐」の再現である聖体拝領(せいたいはいりょう)を行います。
司祭が信徒や会衆に祝福を与え、皆で聖歌を歌い、ミサを終了します。
カトリックの「通夜のつどい」
もともとカトリックでは通夜の習慣が根付いていないので、通夜について特に定まった形式はありません。しかし仏教式の通夜と告別式という形式に慣れている日本の習慣にあわせて「通夜のつどい」を設ける場合がほとんどです。
「通夜のつどい」では、司祭による聖書の朗読の他、聖歌の斉唱、献花などが行われますが、ミサは行われません。献花の方法は後程解説いたします。
カトリックの葬儀の流れ~葬儀と告別式は別~
カトリックの葬儀は「葬儀」の部と、「告別式」の部の2つからなります。
1. 入堂:参列者は受付終了後、教会内に入ります。多くの場合、故人の棺はすでに安置されています。司祭と喪主などご遺族が入場します。その際に参列者は起立して出迎えます。そして司祭が棺に聖水(せいすい=司祭が祝福をした特別な水)をかけます。
2. 開式:司祭が葬儀の開式を宣言します。
3. ことばの典礼:司祭による聖書朗読と説教が行われます。そして参列者全員で祈りを捧げます。
4. 感謝の典礼:パンとぶどう酒に一同で祈りをささげ、参列者の中でカトリック信者は聖体拝領を行います。聖体拝領後、いったん司祭と喪主などご遺族が退場します。
5. 告別式の入堂と聖歌:再び司祭と喪主などご遺族が入場します(棺はそのまま)。参列者は聖歌で迎えます。
6. 聖歌の斉唱:参列者全員で故人の好きだった聖歌などを歌います。
7. 弔辞・弔電の紹介:喪主またはご遺族と親しかった人から故人の略歴や人柄が紹介されます。また弔辞・弔電を紹介する場合もあります。
8. 献花:祭壇に白い花をお供えし、故人への弔意を示します。献花の仕方は後程説明いたします。喪主・ご遺族・ご親族・一般参列者・司祭の順番で行います。
9. 喪主挨拶:ご遺族を代表し喪主が挨拶します。
プロテスタントの場合は葬儀と告別式を一緒に行いますが、カトリックでは葬儀はミサ(2~4の部分)を中心に行い、いったん終了します。そして改めて告別式を行うのが特徴です。葬儀のミサの間は故人が天の国に無事に迎えられ、永遠の安らぎを得られるように祈る時間ですが、告別式は一般と同じように故人を偲び、別れを告げる時間になります。
葬儀・ミサの参列者のマナー
カトリックの通夜のつどいや葬儀では参列者もたびたび聖歌を歌ったり、祈りを唱えたりします。これが仏教式とは違う点です。葬儀会場の入り口で当日の式次第などが配布されることがあります。これを参考に、祈りを捧げる時、また聖歌を歌ったりするときには、できれば故人のために一緒に唱和しましょう。「自分は信者ではないからしたくない」という場合は、強制はされません。
葬儀のミサの間で、信者だけに限られる行為が「聖体拝領」です。これはカトリックの洗礼を受けた人に限られていますので、信者でない方はその間、席について静かに故人をしのびましょう。
「お香典」は「お花料」
キリスト教のカトリック、プロテスタントともに「お香典」ではなく「お花料」を包みます。「お花料」「御花料」と表書きされている香典袋を購入できれば一番良いのですが、急には見つからない場合もあります。その場合には「ご霊前」でも構いません。ただし蓮の花模様が描いてあるものは仏教用なので避けましょう。
無地の香典袋に「お花料」「御花料」「ご霊前」と自分で表書きを書くことも可能です。いずれの表書きの場合も、下部に会葬者の氏名をフルネームで書きます。筆ペンなどを使って薄墨でこれらの文字を書くのは通常のお香典と同じです。
水引は必要ではありませんが、銀色や白黒の一般的なものはそのまま使用できます。会場の受付でお花料を手渡すのも普通のお香典と同じです。受付で式次第や故人の写真が入った印刷物、また「ご絵」(後述)が渡されることがあります。故人の思い出として受け取りましょう。
「お花料」の相場は
お花料の相場は通常の葬儀と同様に、故人との関係性で考えます。一般的なお香典と同額と考えて差し支えありません。
亡くなった方 | 金額 |
---|---|
両親の場合 | 5万円~10万円 |
兄弟姉妹の場合 | 3万円~5万円 |
その他の親族の場合 | 1万円~3万円 |
会社関係の故人の場合 | 5千円~1万円 |
友人・知人の場合 | 5千円~1万円 |
「お花料」を辞退された場合には従う
近年、都市部を中心に葬儀が簡素化される方向にあります。その流れの中で主催者が「お花料」を辞退するケースも多くなってきました。受付でお花料を辞退された場合には、喪主の意思として尊重し、無理に渡すことはやめましょう。
カトリックの葬儀の際の服装
通常の葬儀と同様に、男性は黒の上下スーツに黒のネクタイ、女性も黒のワンピースもしくは上下スーツで参列しましょう。時計やアクセサリーは華美にならないように気を付けましょう。
数珠は仏教のものなので、カトリックの葬儀には必要ありません。カトリック信者の方で葬儀にロザリオ(カトリック信者が聖母マリアを称える祈りを連続して唱える際に、祈りの回数を数えるために使う数珠のようなもの。木製またはガラスなどのビーズをつないだ長い数珠のように見えて、十字架がついています)を持参する人もいますが、信者でない方がロザリオを用意する必要はありません。
献花のしかた
キリスト教の葬儀の場合、カトリックもプロテスタントも仏教式のお焼香の代わりに献花で弔意を表します。献花には会葬者が全員参加します。通夜のつどいの場合も、葬儀の場合も白い花が使われます。
司会者から声をかけられてご自身の順番が巡ってきたら、まずお花係からお花を受け取ります。このとき花びら側を右手で、茎を左手で持ちましょう。そのまま献花台に進んだらご遺族と司祭、さらに遺影に一礼します。
遺影は仏教式と異なり、とても小さいものが献花台の前にある、もしくは遺影そのものを置いていない場合もあります。その場合には棺に向かって一礼しましょう。一礼をし終えたら、花を時計回りに動かして、茎を祭壇側に向けて献花台に置き、静かに手をあわせて祈ります。祈りが終わったら遺影、もしくは棺とご遺族に一礼し、ご自分の席に戻りましょう。
ご絵
お花料を渡した際、または通夜の集いや告別式が終わってから退場する際に会場の出入口で、絵が描かれた小さなカードを配られることがあります。そこに描かれている絵は、だいたい故人が慕って洗礼名に選んだ聖人(カトリック教会が認定した特に信仰が厚い人)や、聖母マリア、またはイエスの絵でこれを「ご絵」といいます。裏面には故人が好きだった聖句や故人の名前と生没年が印刷されています。故人の思い出として受け取って帰りましょう。
受付、遺族などへの挨拶・ことば
実はカトリックには定型のお悔みのことばが存在しません。なぜならカトリックでは死は忌むべきことではなく、新しい命への旅立ちだからです。そのため一般に使われる「お悔み申し上げます」「ご愁傷様です」という「悲しみ」「悔い」を意味するネガティブなことばはあまり使いません。新しい命への旅立ちなのでポジティブなことばを使う傾向があります。なお「ご冥福」「供養」「成仏」は仏教用語なので、これらを含むことばは使わないようにしましょう。
受付では
「ご連絡をいただき、ありがとうございました」
「よろしくお願いいたします」
「○○様の葬儀/通夜のつどいにまいりました」
と挨拶をするのが一般的です。
ご遺族に対して挨拶する場合には、
「○○さんが安らかにお眠りくださいますように」
「神様からご遺族皆様に特別な慰めが与えられますように」
などがよく使われます。
ただ、信者でない方が無理にこのように言う必要はありません。
「○○さん(故人)、最後までよく頑張ってくださいましたね」
「(遺影・または遺体の)お顔を拝見して、ご一緒した頃を懐かしく思いました」
「○○様にはとてもお世話になりました」
といった言葉を心を込めて伝えましょう。マナーがわからないし、信者でもないから何も言えない、と押し黙っているよりも、「悲しみを共にする思い」を表現するようにしましょう。「お辛いでしょうね」「お寂しいですね」などと声をかけることも、ご遺族の慰めになります。どうぞご自分のことばでご遺族に一言、声をかけましょう。それがご遺族にとって一番の励ましになります。
まとめ
日本で行われる葬儀のほとんどは仏教式ですが、故人やご遺族の信仰によって神道式やキリスト教式、イスラム教式などで葬儀が行われることもあります。カトリックは世界では10億人を超す信者がいますが、日本では少数派です。けれども多文化共生が進む日本で、今後はカトリックの葬儀に出席する機会も増えてくる可能性もあります。
葬儀ではマナーを守ることも大切ですが、最も大切なことは故人を敬い、偲ぶ気持ちです。この記事が手助けになって、少しでも緊張せずに故人と最後のお別れができる機会であるカトリックの葬儀にも安心して出席されますように。