“エンディングドレス”、“エピローグドレス”、“ラストドレス”といった言葉をご存知でしょうか。ウェディングドレスを思いおこさせますが、納棺の際に亡くなった方に最後に着せる衣装のことを指します。日本で死装束といえば、白い着物、とくに仏式の死装束である経帷子(きょうかたびら)が一般的。しかし、人生最後の装いだからこそ自分らしく、美しくありたいと願う女性が増えている中、エンディングノートにエンディングドレスのこと書き加える方もいるようです。今回はエンディングドレスとは何か、実際の商品の紹介、注文する際の注意点をご紹介します。
最後の装いだからこそ美しく―現代の死装束“エンディングドレス”とは?
1 従来の死装束とその意義
そもそも死装束は何のためにあるのか、必ず必要なものなのか。疑問に思いますね。日本では遺体は火葬されるため、死装束は着せてもすぐに灰になってしまうのに、わざわざ特別な衣装を用意して着せるのは何故でしょうか。
宗派にもよりますが、仏式の死装束は経帷子に、手甲、脚絆、白足袋、草履がセットになっています。また、三途の川を渡るための渡し賃として六文銭を入れた頭陀袋も添えます。つまり、死装束は死者が浄土にゆくための旅支度なのです。仏教における巡礼者、修行僧の服でもあります。
仏式でも経帷子を着せないのは浄土真宗です。浄土真宗では死後すぐに成仏できるとされているため、成仏するための旅支度の必要はありません。
いずれにしても、多くの場合、死装束は葬儀社が用意し、葬儀社の担当者が納棺の際に着せます。
2 “終活”ブームで高まったエンディングドレスの需要
“終活”という言葉が登場し、自分の人生の終わり方や、死後の葬儀、埋葬のことも前もって綿密に計画する方も増えてきています。特に女性は最後の装いを自分の選択で用意したい方も多いでしょう。白だけではなく、ピンクや花柄など、華やかなものを楽しそうに選ぶそうです。
また、自分のためではなく、家族のためにエンディングドレスを選ぶ場合も。葬儀に参列したことがあっても、死装束を着た遺体の「全体」をしっかり見た経験のある方は案外少ないのではないでしょうか。筆者自身は亡くなった母が死装束を着て横たわっている姿を見ましたが、「そういうものなのだ」と分かっていてもあまり良い印象はありませんでした。経帷子姿の母は寂し気で、それを見てさらに悲しい気持ちになったものです。今思うと、亡くなる前はずっと病院のパジャマ姿だった彼女に、最期は好きな服を着せてあげたかったと思います。
エンディングドレスは故人だけではなく、家族からの申し込みも多いとのこと。亡くなった人にはもう何もしてあげられない。それが家族にとっては辛いものです。最後にきれいな服を着せてあげられた。それだけでも、大きな慰めるなるのではないでしょうか。
3 エンディングドレスのお店を紹介
エンディングドレスを専門に扱うお店を紹介します。
3-1 さくらさくら
2006年よりエンディングドレスを扱っている「さくらさくら」。代表を務める中野雅子さんは服飾で洋裁店などを営む両親の下で育ち、自分も服飾の道に進みましたが、一緒に働いていたお父さんが亡くなった時の体験からエンディングドレスの製作を始めました。優しいおじいさんが大好きだった中野さんの娘さん。ところが、白装束に三角巾姿に「おばけみたい。こんなのおじいちゃんじゃない」と怖がってしまい、最後まで手を合わせられなかったそうです。その時、従来の白装束ではなく、新たな最期の装いを作りたいと思いつき、着付しやすいデザインや、身体のトラブルを目立たせないデザインの研究を始めました。その後、自分も子宮がんという病を経験し、購入する方の気持ちが身に染みて感じるようになったとのこと。だからこそ、常に「最後まできれでいたいという気持ち」や「希望を叶えてあげたい家族の気持ち」に寄り添うようなドレスを制作し続けています。
取り扱っているのはドレスだけではなく、着物も。着物は従来の白装束と異なった品質の高さと美しいデザインですが、白を基調としているので、多くの方が選びやすいです。エンディングドレスならではの心配りも「さくらさくさ」の大きな特徴。体型や怪我や病気の痕が目立たないように幾重にも重ねられた上質な素材に丁寧に縫製。速やかに着させられるように工夫されているので家族の手で着せやすいです。いずれも顔や手元が美し見えるデザインなので棺に入った状態での最期のお別れも優しい思い出になるのではないでしょうか。全ての商品に写真入りのメッセージカードが付いています。
八重桜「白妙」をイメージしたデザイン。襟元の淡いピンクと白の桜に思わず見惚れてしまう逸品。袖口には細やかなギャザーがあり合掌する手元が映えます。
ドレスとガウンを組み合わせたティファニーブルーが素敵なドレス。レースをあしらったボリュームのある胸元が華やか。
水彩画のような明るいドイツ製の花柄の生地に目を奪われる逸品。名前の通り、花園に優しく包まれるようなデザインです。季節ごとの花のコサージュつきです。
3-2 エピローグサロン光の庭
アパレルデザイナーから始まり、現在は展示会コンパニオン衣装や制服のデザインなどを手掛けている、35年以上のデザイナー経験を持つ杉下由美さんが主宰を務める「エピローグサロン光の庭」。そのコンセプトは、「人生を讃えるハレの衣装」。告別式を<人生を讃えるセレモニー>ととらえ、それにふさわしく楽しみながら選べるドレスを提供しています。エンディング(終焉)ドレスとせず、エピローグ(最終章)ドレスとしているのもそうした思いからだそうです。デザインのこだわりは、型紙から開発して「寝たときに一番美しい姿のドレス」にしていることです。立って着るドレスとは型紙から全く違っています。
家族にとっても最期の姿がひときわその人らしく輝いていれば大きな慰めとなりますね。
シンプルな死装束ではなく、花嫁衣裳のようなドレスを着たい、着せたいという場合にもおすすめです。女心をくすぐる可愛らしい、可憐なドレスが印象的です。全商品、ドレスとお揃いのポーチと布ブーツがセット。他にもベールや棺かけを取りそろえています。興味がある方は、HPの通信販売サイトをご覧ください。豊富なバリエーションにびっくりします。
終活の一環として自分だけのオリジナルデザインのドレスを注文できますし、既製品を通信販売で購入することも可能です。
杉下さんがお母さんのために感謝をこめて最高のドレスを贈りたいと制作したのがこのドレス。ハリウッド映画が大好きだったというお母さんにぴったりな愛らしさ、華やかさです。
「光の庭」では、オーダーメイドのドレスを制作する際、その方の<人生の物語>に耳を傾けることを大切にしています。そのため、デザイナーの杉下さんがお客様の話を丁寧にヒアリングした上でデザインするそうです。長年コスチュームデザインを手掛けてきた杉下さん。磨き抜かれた感性を活かし、衣装の目的や効果などを熟考してデザインしますので、その方の人生を表現したオリジナルドレスが仕上がります。完成品が手元に届いた時の感動はひとしおでしょう。
ロイヤルファミリーの衣装のような華やかさと気品を兼ね備えたドレス。お揃いの帽子にも布花がいっぱい散りばめてあり、亡くなったその時にしか着ないのはもったいない!と感じる逸品です。
襟元の透き通るような可憐なレースが顎まで優しくカバーしているドレス。清楚な印象のドレスです。華やかな印象の造花アクセサリーは お花が身近にないお見送りまでの時間も故人を美しく引き立てます。
4 エンディングドレスの相場は?
ざっと見たところ、エンディングドレスは3万円から購入可能。5万円~15万円ほどが一番多い価格帯で、20万円以上のものもあります。価格よりも気に入ったデザインを選ぶ方のほうが多そうです。着るものにこだわりのある方は早めのリサーチがおすすめ。
5 エンディングドレスを用意するタイミングは?
終活という言葉が一般化しても、果たして死装束を生前用意することは良いことなのかと悩む方もいることと思います。しかし、実際にこれが着たいという希望がある場合、事前に購入しておくのが一番良いでしょう。また、多くのエンディングドレスは経年劣化に強い素材を使用していますが、保存期間、保存方法はお店に問い合わせましょう。
身内の方が亡くなってエンディングドレスを着せてあげたい場合は、即急に用意する必要があります。その場合も、お店にいつまでに必要なのかを知らせておき、必要な場合は至急配達で送ってもらうようにしましょう。
葬儀社に対してはエンディングドレスを着せたいという希望を見積もりの段階で知らせておき、了承を得ておくほうが無難です。火葬のことを考慮すると、ガラスやビーズのスパンコールのたっぷりついた社交ダンスのドレスを着せた遺体を火葬したらそれらが溶けて遺骨にべったりくっついてしまったというようなトラブルもあるそうで、これからドレスを選ぶという場合は、葬儀社の方に相談しても良いでしょう。また各宗教宗派の形式にのっとって通夜・葬儀を行う場合には、導師など宗教者にも確認したほうがよいでしょう。
美しい装いはいくつになってもその人に自信を与え、幸せな気持ちにします。それは見送る側も同じです。どうせ火葬にしてしまうのだからというのではなく、人生の締めくくりだからこそ必要なものなのかもしれません。