特に都心では、火葬場の空きがなく、長期間遺体を安置する状況になる待機遺体のことが問題視されています。そんな中、最近、注目され始めているのが、遺体を衛生的な環境で安置し、弔いやお別れの儀式が行える遺体ホテルです。今回は、何故待機遺体が増えているのか、具体的に遺体ホテルはどんな場所かを紹介します。
遺族を悩ませる「待機遺体」問題と遺体安置サービス「遺体ホテル」とは?
1 都心では火葬場不足が深刻!増加する「待機遺体」
“待機遺体”、“遺体ホテル”という言葉をご存知でしょうか。地方の人口が減少していく一方で、都市圏に人口は集中。人がたくさんいれば亡くなる方も多く、首都圏の火葬場は不足気味の状況が発生しているようです。時期によっては火葬を行うまで10日間以上待たされてしまうことも。火葬できる日まで待たされる待機遺体になってしまうという事態が起きています。
待機遺体となってしまう理由は、火葬場の不足だけではありません。通夜、葬儀をしない直葬が増えているのも1つの原因。経済的な理由で直葬が選ばれることが増えていますが、だからといって家族に弔いの気持ちがないかといえばそうではありません。直葬であっても、きちんと弔ってあげたい、ゆっくりお別れをしたいという遺族は多く、そうなると、火葬場でお別れの時間をゆっくり設けたり、僧侶の読経をお願いしたりすることが逆に増えます。つまり直葬の場合、火葬場での時間が長くなりがちで、ますます火葬場は空きがなくなってしまうということのようです。
ところで友引の日の火葬は縁起が悪いと考えられているため、多くの火葬場が友引の日はお休みにしています。しかし、そういう切迫した状況から、友引の日に火葬も葬儀も行うことも。それでも、まったく解消しきれないほど、火葬場不足は深刻な状況です。
2 火葬場で空きが多いのは早朝や夕方だけど…
火葬場は実は時間帯によって空きがあることも。他の時間帯が数日間ぎっしり埋まっていても、早朝や夕方の時間帯なら空いているケースもあるようです。しかし、火葬は1~2時間かかります。この待ち地時間に、遺族は控室に飲食を持ち込み、火葬場まで来ていただいた方を接待することが多いです。そのため、火葬をお昼の時間に合わせるということがあり、その時間帯に火葬場の予約が集中してしまうのです。
3 遺体はいつまで自宅で安置可能?
亡くなったとはいえ大切な家族には違いありません。できれば自宅で過ごさせてあげたいものですが、はたしていつまでだったら自宅でも安置可能なのでしょうか。
まず、季節、安置する部屋の湿度、温度などで可能日数が変わります。しかし、安置の際はドライアイスを用意し、毎日交換すればよほどのことがない限りは2日~4日は問題ないようです。一週間くらい大丈夫という話もありますが、一週間、遺体と過ごすのもどうなのだろうという問題はあるかもしれません。死顔と毎日対面することは、精神的にかなり辛いかもしれません(少なくとも、私の経験では、家族の死顔を見るのは寂しく辛いことでした)。例えば、一週間自宅に遺体があるとなると、そこで日常の生活ができるでしょうか。
4 最大で50日間安置可能―遺体衛生保存(エンバーミング)
遺体の痛みを防ぎ、長期間きれいな状態で安置できる遺体衛生保存(エンバーミング)といわれる技術があります。血液を防腐剤と入れ替えることで遺体の腐敗を防ぐというもので、アメリカ、カナダでは90%以上の遺体に施されるそうです。
しかし、エンバーミングの費用は約15万円~25万円と高額。利用する家族は増えてきていますが、遺体を火葬する日本では費用が大きなネックのようです。
5 そもそも遺体を自宅に安置できない事情も
私の母親が亡くなったのは30年ほど前ですが、その時は、病院で夜中に亡くなり、霊安室に移動した後、明け方暗いうちに一軒家の自宅に帰ってきたことを憶えています。現在ではもっとシビアで、亡くなって1時間ほどで遺体は病院から出なくてはいけないことも多いようです。なので、即刻、どこに遺体を安置するか決めなくていけないわけです。
困るのは、自宅が集合住宅であった場合です。マンションなどの規約で遺体の安置が禁止されていることもありますし、手狭であるため、遺体を運び込むのが難しい場合もあります。棺を縦にはできないので、どうあっても扉から入れることができませんし、エレベーターも無理、階段を登れないということがあるのと、遺体が帰ってきたとしても、安置する十分なスペースがないということもあります。
さらに、血縁であっても、故人と円満な関係でなかった場合、遺体を自宅に置くのが嫌だという場合も。自宅以外に遺体を安置できる場所にはこうした様々な事情からニーズがあるのです。ましてや疎遠だった親せきとなると、抵抗のある方は実際多いことと思います。
6 ラブホテルを改装した施設も!
そうした状況で登場したサービスが「遺体ホテル」です。要するに遺体安置所ですが、遺体を衛生的に安置する環境が整っており、個室を設けた施設が多く、遺族が遺体といつでも対面できるスペースがあるなどの設備が充実している傾向です。家族で集まってゆっくりお別れすることも可能です。プライバシーを重視するので、ラブホテルを改装した施設もあります。
7 遺体搬送、安置、葬儀 ―葬儀社の選択は
病院からの遺体搬送は、多くの場合、病院と提携している業者が行いますが、必ずしもその葬儀社に葬儀まで依頼しないといけないわけではありません。しかし、何らかの理由で自宅に遺体を安置できない場合、遺体の安置場所の選択肢は、遺体搬送の葬儀社が所有したり提携したりする安置所、葬儀式場の安置所、火葬場の安置所、遺体ホテルなどが考えられます。
精神的につらい状況にもかかわらず、慌ただしく準備を進めないといけない中で、搬送を担当した葬儀社に、安置場所も、葬儀も、とそのままの流れですべておまかせしてしまうと、結果的に費用が高くついてしまうことは大いに考えられます。搬送はともかくも、安置、葬儀については、複数の葬儀社を吟味し、見積もりも比較して決めたいところではあります。自ら調べて情報を得ておくことで賢い選択ができるでしょう。
8 遺体ホテルの一泊の料金とサービス例
遺体ホテルの費用は、1泊5千円からで、場所やサービス内容によっては3万~4万円かかる場合もあるようです。相場的には、1万円前後になります。以下に3カ所の遺体ホテルを紹介しますので、参考にしてください。
1.「安置ルームやすらぎ」
東京都杉並区にある「安置ルームやすらぎ」。ホームページの写真で見るかぎりは、落ち着いた雰囲気で、遺体が安置されるのにふさわしい空間と言えそうです。病院から搬送された遺体は保冷設備のある霊安スペースに搬送されます。遺体と家族が対面するだけではなく、弔いを行うホールのようなスペースもあり、読経してもらうことも可能です。杉並区在住の方には特別割引が適用されます。
2.「ご安置ホテルリレーション」
6階建てのビルを改装し、2012年に大阪市北区に開業した「ご安置ホテルリレーション」。12室の家族などが故人一緒に過ごせる客室があります。遺体が安置されているのは、カプセル型の安置機。遺体の腐敗を防ぐ吸熱機能を備えています。ゆったり腰を下ろせるスペース、テレビなどもあり、一般の家のような雰囲気です。
こちらは安置のみの価格の他に、棺代や搬送費などを含むプランもあります。
3.「ラステル」
「ラステル」とは、ラストホテルのこと。つまり、人生の最後に泊まるホテルです。新横浜と久保山の二箇所にあり、遺体を安置する場所だけではなく、家族葬のための式場、湯かん室、ファミリールーム、着替え室、面会室、棺や仏壇のギャラリーなども。至れり尽くせり。一時的に遺体を保管するだけではなく、整った環境で全ての弔いができる施設という印象です。納骨堂の運営や仏壇・仏具を販売している会社が運営しているので、ノウハウは十分と思われ、安心して任せられそうです。
9 「遺体ホテル」の選び方は?
今回取り上げた3カ所の遺体ホテルの例を見てもよく分かるように、一口に遺体ホテルといっても、建物内の様子や安置の方法、設備の充実度など、それぞれ個性があります。しかし、遺体ホテル自体、登場して数年しか経っていませんので、自宅の付近にあるとは限らず、情報もまだまだ少ないです。
自宅以外の遺体の安置が必要で、遺体ホテルが周辺にない場合、葬儀式場付帯の遺体安置所という選択肢があります。その式場で葬儀をあげることが前提の設備なので、安置のみで受け入れてくれるかどうかは確認が必要です。もし葬儀を別の場所で、となるとさらに搬送の手間と費用がかかるかもしれません。全体の費用を比べて確認するのがよいでしょう。
家族が亡くなった場合、自宅での安置ができない方は、病院で困りはてことになるのが予想されます。もし事前に準備する時間があるのなら、見学してみると良いでしょう。本人や遺族の希望にそうものかどうか、より落ち着いた目で判断することができるでしょう。