一家の大黒柱が亡くなると、残された家族は生計を維持していくことが困難になります。
今回は、残された遺族へ支払われる「遺族年金」について説明します。受給の対象者や受給するために満たさなければならない要件などがあり複雑な制度ですが、わかりやすく解説します。いざというときのために詳しく確認しておきましょう。
遺族年金の受け取り方――遺族年金・寡婦年金・死亡一時金などの受取要件と手続き
1 遺族年金とは
生計を支えていた方が亡くなった場合に支給される可能性のあるのが「遺族年金」。これは公的年金である国民年金、厚生年金に付随する制度です。国民年金、厚生年金の概要については、「5.国民年金・厚生年金とは」をご参照ください。
一家の生計を支えていた方が亡くなると、扶養されていた家族は生計を維持することが困難になります。この意味で、一家の中で「国民年金または厚生年金の被保険者または被保険者であった方」が亡くなったときに、残された家族に給付されるのが遺族年金です。遺族年金の受給額は、亡くなられた方との関係や子どもの人数などにより変わります。また、亡くなった被保険者とは別の方と婚姻した場合や、亡くなった方と離縁して親族関係が亡くなった場合などは、受給権が消滅します。
1-1 遺族年金の種類
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。亡くなられた方の納付状況により、いずれかまたは両方の年金が支給されます。
国民年金の被保険者が死亡したとき、被保険者に生活を維持されている「子を持つ配偶者」や「子」に対して一定の要件を満たした場合に、遺族基礎年金は支給されます。つまり遺族基礎年金とは「子どもが成長するまで支払われる遺族年金」です。
遺族厚生年金とは厚生年金の被保険者が死亡したとき、一定の要件を満たしている場合に残された遺族へ支給される年金です。18歳未満の子がいなければ支給されない遺族基礎年金に対して、遺族厚生年金は子がいない配偶者やその他の家族でも受給できる可能性があります。以前は遺族共済年金もありましたが、平成27年10月以降に遺族厚生年金に一元化されました。
2 遺族基礎年金と受給の条件:国民年金の被保険者が亡くなった時
国民年金の被保険者が亡くなったときに支払われる可能性がある、「遺族基礎年金」について説明します。受給の対象となる人や、受給できる保険料納付状況、受給できる額について確認しましょう。
2-1 3つの要件
遺族基礎年金を受給するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
(1)遺族の要件
遺族基礎年金は、以下のいずれかが受給対象者です。
- 死亡者に生計を維持されていた「子(※1)を持つ配偶者」
- 「子(※1)」
(※1)子とは以下のいずれかの条件を満たしている場合です。
・未婚で18歳になる年度の末日(3月31日)を経過していない子
・未婚で20歳未満で障害等級1級または2級の子
(2)亡くなった方の要件
- 国民年金に加入中の人
- 国民年金に加入していた人で、日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の人
- 老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある人
上記のうちどれかに該当する方が死亡した場合が要件です。
つまり、死んだときに国民年金に加入していない場合で、しかしかつて国民年金に加入していたことがあり、なおかつ資格期間が25年に満たない場合に注意が必要です。この状況で60歳未満の場合や65歳以上の場合、遺族年金が支払われません。ただし60歳以上65歳未満であれば、<日本に住所があれば>、資格期間が25年に満たなくても支払われる可能性があります。しかし同一の状況で60歳以上65歳未満でも、<日本に住所がなければ>、資格期間が25年に満たなければ支払われません。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/sonota/20140421-01.html
2つ目の要件に「日本国内に住所を有している方」という条件があります。定年後に海外移住すると遺族基礎年金がもらえないのでしょうか?
海外に移住した場合は、国民年金への加入義務がなくなります。しかし、日本国籍で20歳以上65歳未満の方は、手続きをすれば海外在住でも国民年金に任意加入することができます。海外に移住した方でも次のいずれかの条件を満たせば、遺族基礎年金の被保険者等要件を満たしているといえます。
- 亡くなったときに国民年金に任意加入している場合
- 受給資格期間が25年以上ある場合
逆に、海外在中で国民年金に任意加入しておらず、受給資格期間も25年未満の場合は、遺族基礎年金が支給されません。
(3)亡くなった方の保険料納付要件
亡くなった被保険者の保険料納付状況に応じて要件を満たしているか判定します。亡くなった被保険者が、納付要件の以下に示す、(原則)または(特例)のいずれかを満たしていなければなりません。要件の判定は、死亡日の前日までの納付状況で判断されます。死亡日以降に納付や免除申請をしても、納付要件の判定対象にはなりません。
死亡した月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、3分の2以上の期間、納付済みまたは免除である場合に要件を満たします。納付しているとみなされるのは、保険料納付済期間と保険料免除期間(学生納付特例や納付猶予等)の合計です。
例:平成28年8月2日に20歳に到達し、平成30年3月20日に死亡した方の場合2017年 | 2018年 | 2019年 | |
4月 | 未納 | 納付済 | |
5月 | 未納 | 納付済 | |
6月 | 未納 | 納付済 | |
7月 | 未納 | 納付済 | |
8月 | 免除 | 未納 | 納付済 |
9月 | 免除 | 未納 | 納付済 |
10月 | 免除 | 未納 | 納付済 |
11月 | 免除 | 納付済 | 納付済 |
12月 | 免除 | 納付済 | 納付済 |
1月 | 免除 | 納付済 | 納付済 |
2月 | 免除 | 納付済 | 納付済 |
3月 | 免除 | 納付済 | 死亡 |
→被保険者期間30カ月のうち納付済み15カ月+免除8カ月=23カ月のため、要件を満たしている。
以下のすべての要件を満たしているか判定します。
- 死亡月の前々月までの直近1年間においての被保険者期間に未納がない。
- 令和8年3月31日以前に死亡していること
※ただし、65歳以上の特例高齢任意加入をしている被保険者が亡くなった場合は、(原則)のみの適用となります。
例:平成30年3月20日に死亡した方の場合2017年 | 2018年 | |
4月 | 未納 | 納付済 |
5月 | 未納 | 納付済 |
6月 | 未納 | 納付済 |
7月 | 納付済 | 納付済 |
8月 | 未納 | 納付済 |
9月 | 納付済 | 納付済 |
10月 | 納付済 | 納付済 |
11月 | 未納 | 納付済 |
12月 | 納付済 | 納付済 |
1月 | 未納 | 納付済 |
2月 | 納付済 | 納付済 |
3月 | 納付済 | 死亡 |
→ 死亡月の前々月(平成30年1月)までの直近1年間、未納がないので要件を満たしている。
2-2 支給される年金額
3つの要件を満たしている場合、受給対象者である「子を持つ配偶者」または「子」のどちらかに遺族基礎年金が支給されます。基本額に子の人数に応じた額を加算した年金額が支給されます。支給される年金額は年度ごとに異なります。平成31年4月分からは、以下のとおりです。
基本額(年額)789,100円+子の加算(※2)
(※2)子の加算について
1人目、2人目の子:1人につき年額224,500円を加算
3人目以降の子:1人につき年額74,800円を加算
(基本額(年額)789,100円+子の加算(※3))÷子の人数
(※3)子の加算について
子が受給する場合は、第1子の加算はされず、第2子以降に対して子の加算を行います。
1人目の子:0円
2人目の子:1人につき年額224,500円を加算
3人目以降の子:1人につき年額74,800円を加算
2-3 手続き方法
遺族基礎年金は自動的に支払われるわけではなく、請求手続きを行わなければ支給されません。亡くなった被保険者が自営業者など第1号被保険者だった場合は、以下の手続き方法を参考にしてください。ただし、亡くなった被保険者が会社員などで受給者が第3号被保険者の場合は、遺族厚生年金と一緒に遺族基礎年金の手続きを行います。遺族厚生年金の手続き方法を参考にしてください。
死後5年以内
住所地のある市区町村役場の窓口
第3号被保険者期間中に死亡した場合は、年金事務所または年金相談センター
- 年金請求書(国民年金遺族基礎年金)
- 死亡を証明する書類(死亡診断書のコピーなど)
- 故人の年金手帳、年金証書
- 請求者の年金手帳、年金証書
- 故人と請求者の関係が証明できる書類(戸籍謄本など)
- 年金の振込先がわかる書類(請求者の預金通帳など)
- 生計維持を証明する書類((故人を含む)世帯全員の住民票など)
- 請求者の所得を証明する書類(課税証明書、非課税証明書、源泉徴収票など)
- 印鑑
※第三者による死亡の場合(交通事故など)は、さらに第三者行為事故状況届など他にも書類が必要です。請求する前に必要な書類を確認しておくといいでしょう。
年金請求書は申請場所に用紙を設置してあります。
記入例などこちらを参考にしてください。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/izoku/20180305.html
3 遺族厚生年金と受給の条件:厚生年金の被保険者が亡くなった時
つづいて厚生年金の被保険者が亡くなったときに支払われる可能性がある、「遺族厚生年金」について説明します。要件を満たしていれば「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の両方を受給できます。受給するために満たさなければならない要件や手続き方法など、確認しましょう。
3-1 3つの要件
遺族基礎年金を受給するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
(1)遺族の要件
遺族基礎の受給は、死亡者に生計を維持されていた方1名が対象です。故人との関係により受給の優先順位が決まっています。
- 妻、または55歳以上の夫
- 子(※1)
- 父母(死亡当時55歳以上であること、また支給開始は60歳から)
- 孫
- 祖父母(死亡当時55歳以上であること、また支給開始は60歳から)
- 未婚で18歳になる年度の末日(3月31日)を経過していない子
- 未婚で20歳未満で障害等級1級または2級の子
(2)亡くなった方の被保険者等要件
亡くなった被保険者が以下のいずれかに該当している必要があります。
- 厚生年金の被保険者であるときに死亡した方または被保険者期間中の傷病がもとで初診日から5年以内に死亡した方
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている方
- 老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上の方
(3)被保険者の保険料納付要件
「被保険者中の死亡」または「被保険者期間中の傷病がもとで初診日から5年以内に死亡」の場合は、納付要件の(原則)または(特例)のいずれかを満たす必要があります。
死亡した月の前々月までの被保険者期間に、国民年金の保険料納付済期間および免除期間、厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間の合計が3分の2以上あることが必要です。
65歳未満で令和8年3月31日以前に死亡している場合は、死亡した月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ要件を満たしていると判断されます。
3-2 支給される年金額
遺族厚生年金の支給額は、「本来水準」と「従前額保障」の2種類の計算式のうち、上回る方の額が支給されます。
(A+B)×3/4
A:平成15年3月以前の加入期間により算出
平均標準報酬月額×(7.125/1000)×平成15年3月までの加入期間(月数)
B:平成15年4月以降の加入期間により算出
平均標準報酬額×(5.481/1000)×平成15年4月以降の加入期間(月数)
(A+B)×3/4
ただし、昭和13年4月2日以降の方は(A+B)×3/4×0.998
A:平成15年3月以前の加入期間により算出
平均標準報酬月額×(7.5/1000)×平成15年3月までの加入期間(月数)
B:平成15年4月以降の加入期間により算出
平均標準報酬額×(5.769/1000)×平成15年4月以降の加入期間(月数)
3-3 手続き方法
遺族厚生年金は自動的に支払われるわけではなく、請求手続きを行わなければ支給されません。遺族厚生年金は、遺族基礎年金と合わせて手続きすることが可能です。
死後5年以内
年金事務所または年金相談センター
遺族基礎年金の手続きの際に必要な書類と同じ
年金請求書は申請場所に用紙を設置してあります。
記入例などこちらを参考にしてください。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/izoku/20180305.html
4 国民年金の独自給付「寡婦年金」と「死亡一時金」について
例えば、亡くなった夫が自営業者でかつ子がいない妻など、遺族基礎年金や遺族厚生年金を受給することができないケースもあります。しかし遺族基礎年金を受け取ることができない方を対象として、国民年金の独自給付として、「寡婦年金」と「死亡一時金」があり、受け取ることができる可能性もあります。
受け取る場合は、どちらか一方のみの給付になります。
4-1 寡婦年金
寡婦年金は、亡くなった夫が自営業者などの第1号被保険者で、子どものいない妻が受け取ることのできる年金です。60歳から65歳の期間に支給されます。
受給条件
寡婦年金は、以下の条件をすべて満たす方に対して支給されます。
- 第1号被保険者として10年間保険料を納めた(免除期間を含む)夫と10年以上婚姻期間があった
※ただし平成29年8月1日より前に死亡した場合は保険料納付期間が25年以上必要 - 死亡した夫が障害基礎年金の受給権者ではなく、老齢基礎年金を受けたこともない
- 老齢基礎年金の繰り上げ受給をしていない
受給額
夫が受け取るはずであった老齢基礎年金の4分の3
手続き方法
死後5年以内
住所地のある市区町村役場の窓口または年金事務所または年金相談センター
- 国民年金寡婦年金請求書(用紙は市区町村役場の窓口または年金事務所、年金相談センターに設置)
- 亡くなった方の年金手帳
- 戸籍謄本
- 亡くなられた方の住民票(除票)および請求者の世帯全員の住民票の写し
- 請求者の生計が確認できる書類(所得証明書、課税証明書など)
- (公的年金から年金を受け取っている場合は)年金証書
- 請求者の通帳
- 印鑑
※第三者による死亡の場合(交通事故など)は、さらに第三者行為事故状況届など他にも書類が必要です。請求する前に必要な書類を確認しておくといいでしょう。
4-2 死亡一時金
一時金という名のとおりで年金形式ではなく、一度だけの給付になります。老齢基礎年金を受け取っていない第1号被保険者が対象になります。
受給条件
死亡一時金は亡くなった方が次の条件を満たす場合に、生計を同じくしていた遺族1名に支払われます。受給できる遺族の優先順位は、「1.配偶者2.子3.父母4.孫5.祖父母6.兄弟姉妹」の順です。
- 第1号被保険者として保険料を36カ月以上納めていた
- 老齢基礎年金・障害基礎年金を受け取ることなく亡くなった
受給額
受給額は保険料納の合計月数で決まり、定額給付で一度だけの給付になります。
合計月数 | 給付額 |
36カ月以上 180カ月未満 |
120,000円 |
180カ月以上 240カ月未満 |
145,000円 |
240カ月以上 300カ月未満 |
170,000円 |
300カ月以上 360カ月未満 |
220,000円 |
360カ月以上 420カ月未満 |
270,000円 |
420カ月以上 | 320,000円 |
手続き方法
死後2年以内
住所地のある市区町村役場の窓口または年金事務所または年金相談センター
- 国民年金死亡一時金請求書(用紙は市区町村役場の窓口または年金事務所、年金相談センターに設置)
- 亡くなった方の年金手帳
- 戸籍謄本
- 亡くなられた方の住民票(除票)および請求者の世帯全員の住民票の写し
- 請求者の通帳
- 印鑑
5 国民年金・厚生年金とは
5-1 公的年金の種類
日本国内に住所を有するすべての人には、公的年金に加入する義務があります。公的年金には国民年金と厚生年金の2種類があり、働き方によって加入する年金制度が異なります。
日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人を対象とした年金制度です。国民年金は被保険者の働き方により、次の3つの種別に分かれます。
- 第1号被保険者
20歳以上60歳未満で、第2号・第3号被保険者以外の人。自営業者、農業・漁業者、学生、フリーター、無職の方、第1号被保険者の配偶者。 - 第2号被保険者
原則65歳未満で、会社員、公務員、また一定の額以上の収入があるパート。 - 第3号被保険者
20歳以上60歳未満の第2号被保険者の配偶者で、原則として年収が130万円未満の方。
厚生年金保険の適用を受ける会社に勤める人を対象とした年金制度です。厚生年金に加入している方は、国民年金の種別第2号被保険者に分類されます。以前は共済年金もありましたが、平成27年10月から厚生年金に統一されました。