東京博善株式会社は2020年9月、約300の葬儀会社からなる「全東京葬祭業連合会」に対して火葬料金改定(2021年1月~)の通達をしました。東京博善は東京23区内の火葬場9か所のうち6か所(町屋、四ツ木、桐ケ谷、幡ヶ谷、落合、堀之内)を経営している事業者です。つまり東京都民の半数以上の方が東京博善の施設を利用する可能性があるということになります。10年ぶりの火葬料金改定の理由は、葬祭単価が減額傾向にあることと、人件費増額のためということです。火葬場の値上げの内容や他地域と異なる東京の火葬場が抱える事情について、詳しく解説いたします。
火葬料約30%値上げ!葬儀社側は反発も~東京の火葬場が抱える特殊事情
値上げだけではない火葬料金の変更内容
東京博善の火葬場の火葬炉にはグレードがあり、「貴賓館」「特別賓館」「特別室」「最上等」の順になります。違いは火葬炉前のレイアウトと内装の違いです。それぞれ別々の炉前ホールを設けていて「最上等」は8炉~5炉ですが、「特別室」「特別賓館」「貴賓館」はそれぞれ2炉~3炉のみ。上位のグレードの火葬炉の方がゆったりと利用することができたり、プライバシーを保てる豪華な大理石のホールや収骨室も別にあったりといった違いがあります。「貴賓館」は四ツ木斎場のみにあり、ここが2020年12月現在では日本で最も高い火葬料金だといえます。
火葬費の価格改定の具体的な内容は次の通りです。(故人が大人の場合)
貴殯館 | 280,000円 | 料金改定なし |
特別殯館 | 177,000円→145,000円 | -32,000円 |
特別室 | 107,500円 | 料金改定なし |
最上等 | 59,000円→75,000円 | +16,000円 |
献体 | 41,400円→52,500円 | +11,100円 |
上記のようにもっとも多くの方が利用する「最上等」は値上げされますが、「最上等」よりグレードの高い「特別殯館」は値下げとなり手が届きやすくなります。火葬料金=値上げと言われていますが、全面的に値上げするわけではなく、詳しく見てみると料金据え置きや値下げされるグレードもあるということが分かります。
東京の火葬場の特殊事情
以下のように、東京23区には全部で9か所の火葬場がありますがそのうち7か所が民営、2か所が公営になります。
民営
東京博善株式会社(町屋、四ツ木、桐ケ谷、幡ヶ谷、落合、堀之内)
株式会社戸田葬祭場(戸田)
公営
東京都(瑞江)
港区、品川区、目黒区、世田谷区、大田区による共同事業(臨海)
このように民営の火葬場が主流であるという自治体は他にありません。例えば埼玉県は県内に火葬場が22か所ありますがすべて公営です。神奈川県は県内に火葬場が20か所あり、民営は1か所だけで他はすべて公営です。公営火葬場は各市町村が運営しています。火葬料金は施設ごとに異なりますが、その地域の住民が死亡者である場合は無料または1万円以下が主流で、比較的高い場合でも3万円ほどです。多くの場合、斎場も併設していて斎場の利用料金も安価に設定されており、霊安室に遺体安置も可能です。遺体安置、通夜、告別式、火葬まで、自宅に近い公営火葬場一か所で行うことができて費用負担もかなり抑えられます。
公共インフラである火葬場は他地域ではほとんどが公営なので、企業の利益のために火葬料金が値上げされるという状況は起こりません。そのため民営火葬場が主流の東京においてのみ、この火葬料金値上げとそれに対する反発という問題が起こるという、極めて特殊な事情を抱えているといえます。
東京の火葬場について詳しくはこちらをご覧ください。
ここが違うよ東京の葬儀 ―独特といえる東京の葬儀事情
火葬料値上げに反発する葬儀会社
この火葬料金改定に対して、「喪主の負担増につながる」として葬儀会社の業界団体が反発し、危機感を募らせています。東京博善が値上げしなくては火葬場のサービスを維持できない、経営ができないなら、メインのグレードの火葬料金の値上げも仕方ないかもしれません。しかし東京博善は単体で利益を出しており、経営上問題はありません。一民間企業の事情により誰もが利用せざるを得ない、公共性の高い火葬施設の料金が左右されてよいものなのか、という批判もあります。
今後も注目される東京の火葬場のゆくえ
東京博善は東京23区の住民の7割の火葬を引き受けています。東京23区に住む一般の方が、町屋、四ツ木、桐ケ谷、幡ヶ谷、落合、堀之内の火葬場の、火葬炉の数が最も多く火葬料金も最も安い「最上等」で故人を火葬する可能性は高いでしょう。しかし75,000円の火葬料金の負担が大きい場合や支払えない場合はどのような選択肢があるでしょうか。
まず、一般の方は区民葬を利用するという方法があります。生活保護受給者が亡くなった場合か、生活保護受給者が喪主になる場合は「葬祭扶助制度」を利用できます。港区、品川区、目黒区、世田谷区、大田区在住者であれば臨海斎場を利用することができます。(火葬料金40,000円)
区民葬、葬祭扶助制度について詳しくはこちらをご覧ください。
死んだらかかる「本当の最小限費用」とお金をかけずに葬儀をする方法 ―葬祭費・埋葬料給付金制度や葬祭扶助についても解説
日本は未曽有の高齢化社会であり、2030年代にはまちがいなく「多死社会」を迎えます。誰もが亡くなる可能性があり、多くの親や親族を見送っていくことになります。東京23区の火葬場の経営・運営状況は今後もますます無視できない問題になっていくでしょう。