相続人同士が遺産をめぐり、トラブルに発展することはよくある話です。また、もめることはなくても、どのように遺産を分配するかで悩むケースも少なくありません。今回は自分の財産を自分の意思に従って処分してもらうために遺す「遺言書」について説明します。遺言書があれば、遺族間のトラブルを防げるかもしれません。遺言書を書く意義やメリット・デメリットについてもチェックしましょう。
遺言書とは 作成する意義とメリット・デメリット
1.遺言書について
遺言書とは
自分が死亡した後のことについて、生前に示しておきたい意思表示を「遺言」といいます。そして遺言を書面で表明したものが「遺言書」です。遺言書には死後の財産の処分方法や相続などについて、自分の死後に誰にどのようなことを実行してほしいかを明記します。満15歳以上であれば遺言書を残すことが可能です。
遺言書がない場合
遺言書がなく、相続人が複数人いる場合は、遺産を分割する前に「遺産分割協議」を行う必要があります。遺産分割協議は、相続権のある全員で話し合う必要があり、だれが何をどれだけ相続するかを決める話し合いです。
遺言書がない相続は、民法に定められている「法定相続制度」に従い、遺産を相続人で分割します。しかし、「故人の介護を長年1人でしてきた人」「家業を継いだ人」「長年、故人との連絡を絶っていた人」など、個別の家族の状況・事情により「法定相続制度」で決められた割合ではない割合で分割したいということがありえるでしょう。しかし「法定相続制度」の割合ではない分割を行う場合は、全ての相続人の同意が必要であり、相続の分割をめぐって家族間のトラブルに発展するケースがよくあります。
2.遺言書を書く意義
遺言書を書く意義は、大きく2つに分かれます。
自分のために遺す
子どものこと、自分の財産の処分方法など、自分の死亡後に心配ごとがある方は、遺言書を遺すことで死後の心残りをなくすことができます。死後、だれにどのようなことをして欲しいのか、自分の財産をどのように処分してほしいか、だれに相続させたいかなどを明記することで、憂いをなくします。
遺族のために遺す
遺産相続をめぐって、家族間でトラブルが発生することはよくあります。遺言書にどのような財産があるのか、誰にどの割合で相続させるのかを意思表示することで、遺族間のトラブルを防げる可能性があります。
3.遺言書を作成するメリット
相続人同士がもめるのを防ぐ
遺言書の1番のメリットが、相続人同士のトラブルを防ぐことです。相続がある場合は、相続人全員が意見を一致させて手続きをする必要があります。さまざまな財産について、それぞれ分配を決めていくことは非常に大変な作業で、トラブルに発展するケースも少なくありません。遺言書を遺すことで、相続人は故人の意思を尊重できるため、相続の分配に悩んだりもめたりする可能性が少なくなります。
法定相続人以外にも財産を遺すことができる
財産を相続できる権利や相続する割合は法律により決められています。財産を相続する権利があるのは、故人の配偶者や子ども、親などの法定相続人です。ただし遺言書で遺せば、法定相続人以外の人物にも自分の財産を遺すことができます。遺言書により相続人以外に財産をおくることを「遺贈」といいます。
また、相続人が1人もいない場合は相続財産は国のものになってしまいます。お世話になった知人に財産を遺したい、団体に寄付したい、などの場合は、遺言書によりそれを実現することができます。
相続させたくない人物への相続分を減らすことができる
法定相続人の中に財産を相続させたくない人物がいる場合は、遺言書で相続分を少なくすることも可能です。「少なくすることができる」というのは遺留分に相当する割合は原則として相続できてしまうからです。「遺留分」とは、法定相続人が相続する最低限の遺産取得分のことです。遺留分が認められるのは故人の配偶者、子ども、直系尊属(父母、祖父母など)で、兄弟姉妹以外の法定相続人が対象です。
遺産分割方法の指定ができる
だれが何を相続するのか、個別の遺産について具体的に指示することを「遺産分割方法の指定」といい、遺言書で指定できます。不動産や預貯金など複数の財産がある場合に、「長男に不動産を、次男に預貯金を相続させる」とする指定方法や、「不動産を売却して長男と次男で2分の1ずつ分割する」というように、具体的な処分方法や相続方法を指示することもできます。
遺言者の死後の想いを実現できる
遺言書を作成することで、死後の心配ごとや願いを実現することができます。たとえば遺言者がペットを飼っており、死後はペットの世話をする家族がいないケースです。自分の死後にペットの世話をお願いしたい場合は、ペットの世話をすることを条件にその人に財産を相続する、と遺言することができます。このように条件を付けた遺贈を「条件付遺贈」といい、死後の憂いをなくすことができます。
4.遺言書を作成するデメリット
遺言書のデメリットも把握しておきましょう。
手間がかかる
遺言書を作成する大きなデメリットは、手間がかかることです。
まずは自身が持つ財産について把握しなければならず、その後、誰にどのように分配するかを考えなければなりません。
さらに作成の際には、遺言が無効にならないように定められた方式にそって書く必要があり、慣れていない方は手間がかかることでしょう。
お金がかかる
遺言書を作成するためには手間がかかり、無効になる可能性もあります。そのため、遺言書の作成を、弁護士・司法書士・行政書士などの法律の専門家に依頼する方もいます。
ただし、専門家に依頼する場合は費用がかかります。費用は遺言書に記載する財産の額や依頼する専門家により異なり、数万~数十万円かかります。
不当な内容の遺言は争いの元になる
死後に自分の意思を反映できる遺言書ですが、あまりにも不当な内容の遺言は、争いの元になります。非常識な遺産分割の指示や不当な内容の遺言は、かえって遺族間のトラブルに発展しかねません。
5.遺言書を作成する必要性があまりないケース・作成しない方がいいケース
場合によっては、遺言書を作成する必要性があまりない場合や作成しない方がいい場合があります。
法定相続人が1人しかいない場合
法定相続人が配偶者のみの場合や、子ども1人のみの場合など、相続でもめる可能性がない場合は、遺言書を作成する必要はあまりないかもしれません。
軽い気持ちで遺言書を作成する場合
しっかりと遺言書の書き方について調べずに作成した結果、遺言書が無効になることがあります。また、遺言書がなければ法定相続分に従ってスムーズに財産分割できたのに、遺言書があることで逆に家族間でもめごとが起きるケースもあります。「とりあえず作成しておこう」という安易な気持ちで遺言書は作成しないように、しっかり調べ、よく考えてから行動しましょう。