残骨灰とは?

「残骨灰」という言葉をご存知ですか。「残骨灰処理」に関する団体はいくつかありますが、そのうちの一つである「一般社団法人全国環境マネジメント協会」の定義によると、「火葬後、遺族が収骨し、その残余の焼骨ならびに棺の釘や台車保護剤などの総称」のこととあります。つまり、火葬後に骨壺に収めずに残った分の遺骨などのことをいいます。

遺骨「など」と書きましたが、火葬する際の棺に入っているのは、遺体だけでなく、遺体に着せた服や遺族が入れた副葬品、遺体を収めた棺、棺に打った釘などさまざまなものです。さらに「故人の身体」には、治療した歯にかぶせていた金や金銀パラジウム合金、人工関節やペースメーカーの貴金属が含まれていることもあります。また、残骨灰にはダイオキシン類や六価クロムなどの有害物質が含まれていることが分かっています。つまり「残骨灰」と一言でいっても、単に「遺体を火葬した後の残り」ではなく、棺や副葬品が燃えた灰、有害物質や有価物をも含む非常に複雑なものということになります。

また火葬後に骨上げできない生後間もない赤ちゃんや死産した赤ちゃんの遺骨、お墓のない方の遺骨も残骨灰として処理されることもあります。

東西の収骨の方法のちがい

昔から西日本と東日本ではそもそも収骨方法に違いがあり、骨壺の大きさも地域によって異なります。東日本では全骨を収骨する「全収骨」(総骨)のため、収骨容器(骨壺)は大きめです。西日本ではすべての骨を収骨せず一部の遺骨を収骨する「部分収骨」が多く、骨壺のサイズは東日本より小さめになります。そのため残骨灰は西日本で多くなります。

残骨灰に国の統一基準はない

日本では墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)により、火葬後の焼骨について以下のように定められています。この墓埋法では、「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む)を土中に葬ることであり(第2条)、「焼骨」は定められた墓地以外に埋めることはできない、とされています。

第4条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。

参考

厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」(外部リンク)

しかし、残骨灰については「焼骨」にあたらず、誰が所有するのか、処理の方法について国に統一的基準はありません。厚生労働省は「残骨灰には法律も監督官庁もない」といい、いっぽうで環境省は「残骨灰は廃棄物処理法の対象ではないので処理法を定めていない」と答えています。そのため国(具体的には厚生労働省と環境省)は、残骨灰はそれぞれの自治体で判断し、処理してほしいとしています(※)。

※P.25中日新聞社会部『死を想え(メメント・モリ)! 多死社会ニッポンの現場を歩く』2020年3月

自治体の判断基準

残骨灰の処理について国の明確な基準がないとなると、対応を任された自治体は残骨灰をどう考え、どう処理しているのでしょうか。

自治体としての認識・判断基準

現在、各地の自治体での基本的な認識として、共通しているものは次の3点にまとめられます。

  • 残骨灰は市区町村の所有物である
  • 宗教的感情に沿って適切に取り扱われるべきである
  • 残骨灰の処理過程では有害物質の排出を抑制する

またこれらの認識は、次の4つの判断基準に依拠しています。

1. 1939年の大審院判決

残骨灰は「市町村の所有」だとした大審院(現在の最高裁)の判決(1939年)。

2. 墓埋法の趣旨

「国民の宗教的感情に沿って取り扱う」という墓埋法の趣旨。

「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする。」

3. 2000年厚生省の指針

残骨灰のダイオキシン類濃度は非常に低いという厚生省の調査とそれに伴う指針。

火葬場から排出されるダイオキシン類削減対策指針
「残骨灰中のダイオキシン類濃度は非常に低く、環境に与える負荷は大きくない。従前通り墓埋法の趣旨に鑑み適正に取り扱うこと」

出典

火葬場から排出されるダイオキシン類削減対策指針(2000年3月31日厚生省)[pdf](外部リンク)

4. 2010年厚生労働省の通知

厚生労働省から発せられた以下の内容を含む通知。
「集塵灰は残骨灰と分別すること」
「有害化学物質の排出抑制に努めること」
「宗教的感情の対象として扱われる場合は廃棄物ではないが、宗教的感情の対象として扱われない場合は廃棄物とすること」

火葬場における有害化学物質の排出実態調査及び抑制対策に関する報告書の送付について

出典

火葬場における有害化学物質の排出実態調査及び抑制対策に関する報告書の送付について(2010年7月29日厚生労働省)(外部リンク)

実際の自治体の対応はバラバラ

結局、残骨灰ついては明確に法律で定められておらず、厚生労働省の通達など様々な基準をベースに各自治体判断において、それぞれの方法で処理されているのが現状です。実際、残骨灰を売却している自治体、売却していない自治体、業者に処理を委託している自治体、など具体的対応は様々です。業者に処理を委託するにおいても、ゼロ円や1円といった超低額で契約が成立するケースがあり、そのことが問題視されるケースもあります(※1)。

「よりよい発注方法を探すために墓埋法を読み返したが、残骨灰についての条文は、やはりなかった。(中略)統一的な基準を定めてほしい」(下関市)、「今の方式が最善だとは思っていない。(中略)どのような業者に、いくらで委託するのが適切なのか(中略)国の助言がほしい。」(高崎市)と、判断を任された自治体が迷っている声もあります(※2)。

大まかにケース別に分け、残骨灰の売却や業者への処理方法、売却益をどうしているか、いくつかの自治体の例を見てみましょう。

※1 「火葬後の残骨灰、貴金属どう扱う 1円で受託する業者も」2019年8月26日朝日新聞digital
※2 p.26中日新聞社会部『死を想え(メメント・モリ)! 多死社会ニッポンの現場を歩く』2020年3月

1. 残骨灰を売却せずそのまま埋葬する自治体

香川県高松市の場合

平成27年9月議会における一般質問における、高松市の残骨灰の取扱いについての答弁の記録によると、ほとんどの人が部分収骨を希望するため残骨灰は多く、毎年8トン以上。残骨灰の売却はせず、「自然サイクル保全事業協同組合」の曹洞宗大本山總持寺祖院(石川県輪島市)内の全国火葬場残骨灰諸霊供養塔に埋葬されています。

高松市の残骨灰の取扱いについて/高松市[pdf](外部リンク)

高松市市民政策局市民やすらぎ課より2020年10月25日付のSOBANI編集部宛の回答です。
「高松市は平成27年当時から変更なく、石川県輪島市にある最終埋葬地に納骨しておりま
す。」

2. 残骨灰を売却する自治体

残骨灰を自治体が売却、その売却益を自治体の収入にあてるケースです。残骨灰を購入した業者は、残骨灰中の有価金属を抽出し、転売することで事業利益を得ます。つまり自治体がお金を払って残骨灰の処理を業者に委託するのではなく、残骨灰を業者に販売する、という方法です。最後に残った遺骨は業者が埋葬供養をするケースが多いようです。

神奈川県横浜市の場合

以下、横浜市健康福祉局環境施設課より2020年10月21日付のSOBANI編集部宛の回答です。

【横浜市の売払契約の概要】残骨灰に含まれる有価金属(金、銀等)の抽出を前提とし、残骨灰に含まれる「残骨」は墓地等に適正に埋葬及び供養すること等を条件とした売払契約。残骨灰の売払により得られる収入は、斎場利用者が直接利用するものや供養の意を表すものに限定して使用し、斎場の利用環境向上等を図っています。

群馬県高崎市の場合

高崎市は昭和50年代から残骨灰を売却し、その際の売却益は市の歳入としてきたとあります。

  • 残骨灰は必ず発生するので遺骨と同様に礼節を持って丁重な供養とするため、最終埋葬地へ埋葬します。
  • 分別されたその他の混合灰には、ダイオキシンなどの有害物質が含まれていることもあるので、高熱溶融などの無害化処理等適正処理を業者が行います。
  • 高崎市に業者登録している残骨灰の回収業者を対象に、売却条件を付けた上で見積り合わせを行い、もっとも買取り金額の高い業者に引き渡しています。
  • その売却条件とは、残骨は遺骨と同様に礼節を持って丁重な供養をすること、最終埋葬地へ埋葬すること、その他の混合灰は有害物質除去を実施して適正に処理することなど。
  • 売却益(例:平成28年度約1,377万円)は全額を斎場の運営費に使っています。
参考

高崎市 高崎市斎場の「残骨灰処理の実態」について(平成30年1月分回答)(外部リンク)

3. 有価金属を売却する自治体

自治体が残骨灰をまるごと売却するのでなく、抽出した有価金属のみを売却する、という考え方です。残骨灰から有価金属を抽出する中間処理については、自治体から業者に対価を支払って処理委託します。取り出された有価金属は自治体が競売にかけ、その売却益は自治体の収入になります。

大阪府大阪市の場合

大阪市についてはSOBANI編集部からの質問に対し、回答を得ることが出来ました。大阪市がこの3つめのケースにあたることがわかります。
以下、大阪市環境局事業部事業管理課より2020年9月29日付の回答です。

大阪市は平成29年度までは残骨灰をすべて埋葬していましたが、平成30年度から中間処理を業者に委託し、遺灰は埋葬し、有価金属は売却することに切り替えました。

「火葬により生じた焼骨等のうち、遺族等が収骨した後に残ったもの(以下「残骨灰」という。)の処理については、平成29年度まで、委託業者が各斎場から回収し、そのままの状態で瓜破斎場内の埋葬地に埋蔵しておりました。
しかし、埋葬地の残余容積が逼迫し、あと数年で埋蔵できなくなることが予想されたため、埋葬地を延命化して使用することを目的として、平成30年度から残骨以外の不純物を除去し、残骨灰の総量を減容化する中間処理業務を専門業者に委託しております。
なお、処理後に返還された残骨については、これまでと同様に瓜破斎場内の埋葬地に保管しており、又有価金属類(金・銀・プラチナ・パラジウム)については、入札のうえ売却し、本市の収入としております。」

大阪市環境局事業部事業管理課より、SOBANI編集部への回答(2020年9月29日付)

残骨灰問題の整理

最後に残骨灰をめぐる問題を整理してみます。

「焼骨」なのか「廃棄物」なのか

残骨灰とは何なのでしょうか。墓埋法が定める供養するべき「焼骨」なのか、それともすでに収骨した後の「残り」を処理する過程を経ているので「産業廃棄物」のどちらなのか疑問に思っていましたが、前述のように、厚生労働省も環境省も自らの管轄ではないといっている。つまり厚労省の管轄である「焼骨」でもないし、環境省の管轄である「廃棄物」でもないということになってしまいました。

前述の厚生省の通達内容には、宗教的感情の対象として扱われる場合は廃棄物ではないが、宗教的感情の対象として扱われない場合は廃棄物とする、とありました。これについては、では「宗教的感情の対象として扱われる」場合とそうでない場合の線引は何なのか、という疑問が残ります。ますますどう解釈したらいいのか分からなくなりました。

悩む自治体

結局、現状としては「残骨灰の処理方法が自治体に一任されている」ということは事実です。東西で収骨方法が異なり地域によって対応方法が変わってくるとはいえ、国の法律や制度がなく、残骨灰の考え方や処理の方法について悩み苦慮しているというのが自治体側の状況でしょう。当然各地で対応には様々なケースがあることが分かりました。

考え方・受け取り方が人によって違う

残骨灰を遺骨だと考えれば、それは亡くなった人の一部であると考える人もいるでしょうし、もう収骨はしたのだから「残り」はモノ、廃棄物でいいのではないか、と考える人もいます。宗教的感情の対象として扱えるかどうか、扱うかどうか、はそもそもはっきり決められることではなく、遺体や遺骨についての心情や考えは、地域というよりは本当に、人によってまちまちである、というところに残骨灰をめぐる問題の難しさがあります。さらに、残骨灰の売却は妥当か、残骨灰を遺骨と有価物に分けた上で、有価物売却して貴金属から収益を得るのは適当か、またその収益は誰のものであるべきか(業者なのか、市民なのか、遺族なのか)、そもそも残骨灰から収益を得るとは倫理的にどうなのか、という議論もあります。

火葬場で収骨をした経験を持つ人は多くいると思います。収骨して骨壺に入った遺骨は大事に胸に抱えられて自宅に戻り、その骨壺は故人がそこにいるかのように遺された人々に大事に扱われることでしょう。一方で、この残骨灰という扱いの非常に難しい問題が存在します。市民一人ひとりが関心を持ち、考えを深めていくべき社会課題といえるでしょう。

参考

一般社団法人全国環境マネジメント協会(外部リンク)
『死を想え(メメント・モリ)! 多死社会ニッポンの現場を歩く』中日新聞社会部 2020年3月