家族葬や直葬など葬儀の小規模化、簡素化は新型コロナ前から進んでいましたが、今回の新型コロナによって弔い、葬送のあり方はさらに変化しています。2020年、新型コロナによって志村けんさんや岡江久美子さん、勝武士さん（力士）、善竹富太郎さん（狂言師）、羽田雄一郎さん（国会議員）ら有名人も亡くなりました。2020年1月10日現在、2度目の緊急事態宣言が発令されていて、人が集まることが難しい日々は続いています。火葬や葬儀、納骨なども今までの方法ではできない、制約の多い状況下で遺族は亡くなった人をどのように見送ったのでしょうか。葬儀という儀礼の意味や遺族のグリーフケアについて改めて考えてみたいと思います。

志村けんさん

まだ自宅における娯楽の中心がテレビだった時代、志村けんさんの存在は非常に大きいものでした。1980年代に小学生だった人の中で、志村さんが演じていた変なおじさんや「ドリフ大爆笑」「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」のおじいさんやおばあさんの真似をしたことがない人はいないのではないでしょうか。

志村けんさんが亡くなったことは新型コロナウイルスが、決してただの風邪などではなく、死に至りうる感染症であることを周知させることになってしまいました。発熱から10日後、陽性の診断から6日後の3月29日に亡くなりました。70歳でした。志村さんのお兄さんは、病院の霊安室に安置された棺の蓋を開けて顔を見たり、棺に遺品を入れたりすることはできませんでした。霊柩車に乗せられた棺とともに火葬場に向かうことも叶わず、一般的に火葬場で行われる最後のお別れや骨上げはできなかったと話しました。葬儀・告別式はできず簡単な弔いを自宅で行ったそうです。コロナの終息後にお別れ会が開かれる予定だそうですが、2021年1月現在まだ終息の見通しはたっていません。（※1、2、3）

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お別れの会（偲ぶ会）の開き方とその内容

岡江久美子さん

「はなまるマーケット」の司会や「天までとどけ」のお母さん役などで活躍した女優・タレントの岡江久美子さん。岡江さんは4月3日に発熱して自宅で療養していましたが、3日後の6日朝に容体が急変して緊急入院。ICUで人工呼吸器を装着して約2週間治療を続けていましたが、4月23日に63歳で亡くなりました。

入院していた17日の間、家族との面会はできませんでした。娘の美帆さんは、入院中の岡江さんにテレビ電話や電話で声を聞きたい、聞かせたいと考えて父親の大和田獏さんに相談したところ、本当は誰よりも声が聞きたかったにも関わらず、治療にあたってくれている病院の皆さんの方が自分より大変、こっちからお願いはできないと言われたそうです。自分の気持ちよりも病院の方々のことを考えて凄いと思った、と明かしています。

家族が再会できたのは火葬後に遺骨となって帰宅した時だったそうで、葬儀も執り行うことができませんでした。美帆さんは最後のお別れや火葬に立ち会うこともできず、「正直、遺骨を見てもそれが母だとは思えなかった。葬儀という儀式の大切さを痛感しました。」コロナが終息したら「母は交友関係が広かったですし、節目が必要だと思うので、いつかお別れ会はしたいです。」と話しました。（※4）

勝武士さん

勝武士さん（しょうぶし、本名・末武清孝さん、高田川部屋力士）は5月13日、新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全で亡くなりました（28歳）。大相撲においても主要プロスポーツの国内現役選手としても、新型コロナによって亡くなったのは初めてでした。4月4日から発熱していたものの当初受け入れ先の医療機関が見つからず、8日に救急搬送されて東京都内の病院に入院、4月19日に悪化してからは集中治療室で治療を受けていました。

大相撲には「一門」という派閥・グループがあり、一門が主体となって執り行う親方などの葬儀―「一門葬」があります。日本相撲協会には現在、所属する親方が多い順に「出羽海一門」「二所ノ関一門」「時津風一門」「高砂一門」「伊勢ケ濱一門」の5つの一門があります。前井筒親方（元関脇・逆鉾）の時は「時津風一門葬」として、東関親方（元幕内・潮丸）の時は「高砂一門葬」として通夜・葬儀が行われました。幕下以下の力士では前例のないことですが、勝武士さんについては「二所ノ関一門葬」が検討されているそうです。（※5、6）

善竹富太郎さん

善竹富太郎さん（ぜんちくとみたろう、本名・茂山富太郎、大蔵流狂言師）は4月30日新型コロナウイルス感染に伴う敗血症によって亡くなりました（40歳）。2021年2月23日宝生能楽堂「第7回～狂言×ソーシャルディスタンス～」の演目に「善竹富太郎君を偲ぶ手向「祐善」」とあります。その日の出演者全員が善竹富太郎さんに謡いや舞を手向けて、故人を偲ぶ予定になっています。狂言師の方たちならではの追悼の方法です。（※7、8）

羽田雄一郎さん

羽田雄一郎参議院議員は12月24日、37度以上の発熱がありました。翌25日にはPCR検査をインターネットで申し込み、27日午後に予約が取れていたそうです。自宅で安静にしていましたが、27日には熱が高くなっていました。予約していたPCR検査を受けるために、迎えに来た秘書の運転する車に乗ってしばらくした後、呼吸が荒くなるなど容体が急変、秘書が後部座席の羽田さんの意識がないことに気づいて救急車を呼んだといいます。病院に搬送されたもののそのまま死亡が確認されました（53歳）。

同日遺体は警察に移動され、親族だけが大きな布に覆われた遺体と対面。翌28日、検視を行った東京都監察医務院は死因が新型コロナウイルス感染症だったと明らかにしました。地元の長野県上田市の後援会事務所には記帳台が設けられ、地元関係者が故人の写真に手を合わせて故人を偲びました。通夜や葬儀は行わず、後日「お別れの会」を開く予定になっているそうです。（※9、10）

今後必要になってくる遺族のケア

感染が拡がって時間が経つにつれて、新型コロナは「急激に悪化する」ことが多いと分かってきました。余命を宣告されたり、闘病を続けて亡くなったりするのではなく、急激に病状が悪化して家族は心の整理が全くできていないうちに突然家族や友人を失ってしまう。柳田邦夫さんは、コロナでの死は「災害や事故、事件で突然、身近な人間を失ってしまう死別」に近く、米国のミネソタ大学のポーリン・ボス名誉教授の言う『あいまいな喪失』（ambiguous　loss）に該当」する。遺族は「みとれずに遺骨だけが戻っても、家族はあいまいな喪失感を抱えたまま、葛藤に苦しむことがある」と語っています。（※11）

故人が生きて繋いできた人間関係の中で思い出して話すこと、そしてその人が「生ききったこと」を遺された人が確認する、それが通夜・葬儀で人が集まる意味の一つです。時間の流れとともに何か具体的な動作を行ったり、段取りを踏んだりすることによって、亡くなった人が「いる」から「いない」状態に徐々に気持ちを移動していく儀式ともいえます。

鵜飼秀徳さんも「葬儀こそが、遺族の後悔や悲しみを癒やしてくれる唯一の手段」だと言っています。看取れず、火葬に立ち合うこともできず、通夜・葬儀で故人を思い出して見送ることもできなかったままでは遺族の気持ちは置き去りになったままになってしまうかもしれません。コロナ終息までもう少し時間はかかるかもしれませんが、岡江久美子さんの娘の美帆さんが言うようにお別れの会など実際に人が集まって故人の思い出を話すような機会、「節目」は遺族のグリーフケアという面でも必要でしょう。

（※1）志村けんさん・岡江久美子さん・羽田雄一郎さん…2020年新型コロナに感染し亡くなった著名人（外部リンク）

（※2）志村けんさん遺骨は兄知之さんのもとへ「重いしまだ熱い」感染予防のため棺にふた…遺品入れられず（外部リンク）

（※3）鵜飼秀徳　志村けんさん｢コロナ死｣した後の残念すぎるプロセス「骨も拾えず､顔も見られない」（外部リンク）

（※4）「綺麗なまま母らしく旅立ち…」　「岡江久美子」さん長女が初めて明かす「母の最期」（外部リンク）

（※5）28歳三段目力士、勝武士が死去　コロナで国内最年少か…受け入れ先なく発熱4日後に入院（外部リンク）

（※6）勝武士さん、異例の一門葬も…親方衆ら対象多いが協会関係者「約1か月も頑張った証しとして」（外部リンク）

（※7）狂言師の善竹富太郎さん死去　新型コロナで（外部リンク）

（※8）立合狂言会（外部リンク）

（※9）「たいした熱じゃないから…」PCR検査断った立憲・羽田雄一郎参院議員の悲劇（外部リンク）

（※10）羽田雄一郎議員、コロナで急死に地元衝撃　糖尿病の基礎疾患に後援会幹部「甘党だった」（外部リンク）

（※11）死者みとれぬコロナの残酷　脳死の息子弔った柳田邦男氏（外部リンク）