「家族葬10万円」の広告は実際30万円に―消費者庁の措置命令に学ぶ、葬儀費用で後悔しないための確認ポイント
1. 何が起きたのか―消費者庁による措置命令の概要
2026年9月18日、消費者庁は葬儀サービスを提供する株式会社金宝堂に対し、景品表示法第7条第1項に基づく措置命令を発出したと発表しました。対象となったのは、同社が展開する家族葬サービス「小さな森の家」です。
消費者庁の発表や複数の報道によると、同社はテレビCM等で「10.45万円~」という表示を行い、あたかもその金額から家族葬サービスを利用できるかのように宣伝していました。しかし実際には、最低でも約30.8万円が必要であり、表示価格と実際の支払額の間には約3倍の開きがあったとされています。消費者庁はこれを、実際のものよりも取引条件が著しく有利であると一般消費者に誤認させる「有利誤認表示」(景品表示法第5条第2号)にあたると判断し、不当表示であることの周知徹底や再発防止策の実施などを命じました。
このニュースは、NHK、テレビ朝日(ANN、Yahoo!ニュース配信)、時事通信、ライブドアニュース、Infoseekニュース、日本海新聞、Web担当者Forumなど複数の主要メディアで報じられたほか、消費者庁の公式X(旧Twitter)アカウントも発表内容を投稿し、Togetterでも反響がまとめられるなど、X(旧Twitter)上でも話題になりました。
なお、本記事執筆時点で確認できているのは消費者庁の措置命令の内容および各報道機関の報道内容のみです。契約者個々の被害状況など、公式発表・報道で確認できていない情報については、憶測を含め言及していません。
2. 「表示価格」と「実際の支払額」はなぜこれほど乖離するのか
今回の事例に限らず、葬儀業界では「〇〇円から」という表示を巡る指摘がたびたびなされてきました。葬儀に詳しいYouTuberの佐藤信顕氏は、今回の報道の中で「10万円を下回る費用で葬儀を行うことは実務上難しい」という趣旨の指摘をしており、業界内でも「~円から」という最低価格のみを打ち出す表示の分かりにくさが以前から問題視されていたことがうかがえます。
「~円から」という表示は、あくまで最も条件の少ないケース(例えば、参列者が極めて少ない、祭壇や返礼品を最小限にする等)を前提とした金額であることが一般的です。実際の家族葬では、次のような費用が積み重なって、表示価格よりも総額が大きくなるケースが少なくありません。
- 祭壇・棺・遺影写真・式場使用料など、基本プランに含まれない項目の追加
- 参列者数に応じた飲食費・返礼品費の増加
- ドライアイス代・搬送距離に応じた寝台車費用など、状況によって変動する費用
- 宗教者(僧侶等)へのお布施・御礼(葬儀社の見積もりに含まれないことが多い)
つまり、広告で目にする金額は「最安のケースの一例」であり、多くの家庭にとっての「実際にかかる金額」とは異なる場合があるという前提を、まず知っておくことが重要です。
3. 葬儀費用の全国相場を知っておく(2026年調査)
「表示価格」に惑わされないためには、まず葬儀費用の全国的な相場感を知っておくことも役立ちます。株式会社鎌倉新書が実施した2026年の全国調査によると、葬儀費用(総額)の全国平均は96.73万円で、前回調査(94.21万円)から約2.5万円増加しています。葬儀の形式別に見ると、次のような相場になっています。
| 葬儀の形式 | 費用総額(平均) |
|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 |
| 家族葬 | 96.39万円 |
| 一日葬 | 74.43万円 |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 |
費用の内訳(全体平均)は、基本料金が72.02万円、飲食費が11.67万円、返礼品費が13.03万円となっています。これらはあくまで全国平均であり、地域や式場、参列者数によって上下しますが、「〇〇円から」という広告表示だけでなく、こうした相場観を併せて持っておくことで、提示された見積もりが極端に低い・高いものではないかを判断する材料になります。
同調査では、喪主経験者の63.8%が「事前に準備をしていなかった」と回答し、約87.1%が「相見積もりを取らなかった」と回答している点も見逃せません。今回の措置命令のようなケースに限らず、多くの方が比較検討をしないまま契約に至っている実態がうかがえます。
4. 葬儀費用のトラブルが後を絶たない4つの背景
葬儀費用をめぐるトラブルは、今回のニュースがきっかけで急に生まれたものではありません。以前から、国民生活センターに寄せられる葬儀関連の相談のうち、半数以上が「高価格・料金」に関する内容だったとする報道もあります。こうしたトラブルが繰り返される背景には、葬儀という取引ならではの事情があります。
(1) 判断のための心理的な余裕がない
身近な方を亡くなられた直後という、深い悲しみの中で短期間に多くの決定を迫られる状況では、冷静に金額の妥当性を吟味する余裕を持ちにくいものです。
(2) 料金体系が複雑で分かりにくい
基本プランと、そこに含まれるもの・含まれないオプションの境界が分かりにくく、契約時には把握しきれないまま話が進んでしまうことがあります。
(3) そもそもの相場観を持ちにくい
葬儀は人生で何度も経験するものではないため、提示された金額が高いのか妥当なのか、消費者自身が判断しづらいという事情があります。
(4) 「故人のために」という気持ちがグレードダウンへの抵抗感を生む
費用を抑える提案をされても、「故人のために、これくらいはしてあげたい」という気持ちから、金額よりも内容を優先してしまいやすいことも、費用が膨らむ一因とされています。
5. 後悔しないために―見積もりで必ず確認すべきポイント
こうした事情を踏まえると、家族葬・一般葬を問わず、見積もりを受け取った際には次のポイントを確認しておくことが、後悔を防ぐ手がかりになります。
総額でいくらになるかを必ず確認する
「基本プラン〇〇円」という表示だけでなく、参列予定人数・希望する内容を伝えた上で「最終的に総額でいくらになるか」を明確に提示してもらいましょう。
プランに含まれるもの・含まれないものを線引きする
祭壇・棺・遺影・式場使用料・ドライアイス・搬送費・飲食費・返礼品費・宗教者へのお布施など、費目ごとに「基本プランに含まれるか、別途費用が必要か」を一つずつ確認します。
固定費用と変動費用を区別して把握する
式場使用料や基本セット料金のように参列人数にかかわらずかかる「固定費用」と、飲食費・返礼品費・お布施のように人数や内容によって変わる「変動費用」を分けて考えると、見積もりの変動要因が把握しやすくなります。
会葬者数の見込みが実態に合っているか確認する
見積もりの前提となっている会葬者数が、実際に想定している人数と大きくずれていないかを確認しましょう。想定人数が少なめに設定されていると、当日になって飲食費・返礼品費が想定以上に膨らむことがあります。
葬儀費用の内訳をより詳しく知りたい方は葬儀っていくらかかるの?費用の内訳を解説もご覧ください。
見積書は書面で受け取り、保管する
口頭でのやり取りだけで済ませず、必ず書面(またはデータ)で見積書を受け取り、契約前・契約後に内容を照らし合わせられるようにしておきましょう。
6. 相見積もりを取るときの実践的な進め方
可能であれば、1社だけでなく複数の葬儀社から見積もりを取ることで、金額や内容の妥当性を比較しやすくなります。相見積もりを取る際は、以下の点を意識すると比較がしやすくなります。
- 条件をできるだけ揃えて依頼する:会葬者数・式場の希望・宗教形式など、各社に伝える前提条件を統一する
- セット料金の内訳を必ず質問する:「〇〇プランに何が含まれているか」を各社に個別に確認する
- 追加費用が発生しうる項目を事前に聞いておく:当日になって初めて分かる追加費用がないか、事前に質問する
- 安さだけでなく対応の丁寧さも見る:質問に対して曖昧な返答しかしない葬儀社は、契約後のトラブルにつながりやすい傾向があるとされています
なお、時間的な余裕がない「今まさに」の状況では、複数社を比較する余裕がないことも少なくありません。だからこそ、次の章で触れるように、余裕のあるうちから備えておくことに意味があります。
見積もりの確認やオプションの見送りは失礼にあたる?
「金額のことを聞くのは故人に失礼ではないか」「オプションを断ると薄情だと思われないか」と感じる方も少なくありません。しかし、見積もりの内容を確認したり、必要のないオプションを見送ったりすることは、故人への気持ちの大きさとは別の問題です。多くの葬儀社にとって、内容や金額について質問されることは通常の対応範囲であり、丁寧に説明してくれる葬儀社であれば、質問したこと自体を理由に不快感を示すことはまずありません。分からないことをそのままにせず、遠慮なく確認する姿勢が、結果的に納得のいく葬儀につながります。
費用を抑えたい方は死んだらかかる「本当の最小限費用」も参考になります。
7. 終活の一環として、今からできる備え
今回のようなニュースを見て「自分や家族の葬儀は大丈夫だろうか」と不安になった方もいるかもしれません。葬儀費用のトラブルを避けるための備えは、特別なことではなく、終活の一環として取り組めるものです。
- 事前見積もり(生前見積もり)を取っておく:時間的な余裕があるうちに、希望する葬儀の形(家族葬・一日葬・直葬など)を伝えて見積もりを取っておくと、いざという時に慌てず比較検討ができます。
- 希望する葬儀の形を家族と共有しておく:本人が希望する規模・形式をあらかじめ家族に伝えておくことで、遺された家族が短時間で多くの判断を迫られる負担を減らせます。
- 複数社の資料を比較しておく:いざという時に慌てて1社だけで決めてしまうことを避けるため、事前に2〜3社の資料や見積もりに目を通しておくと安心です。
こうした「もしもの時」への備えは、葬儀そのものだけでなく、その先にある「ご遺骨をどう供養するか」という選択にもつながっていきます。
8. 葬儀を終えた後に考えたい、ご遺骨の供養方法
葬儀を終えた後、多くのご家庭が次に向き合うのが「ご遺骨をどのように供養するか」という問題です。従来のようにお墓を新しく建てる以外にも、近年は手元供養・自宅納骨・樹木葬・海洋散骨・永代供養・納骨堂など、選択肢が多様化しています。
費用面での透明性が重視される流れは、葬儀だけでなく供養の選び方にも共通しています。「後になってから想定外の費用が発生した」ということがないよう、それぞれの供養方法にかかる費用や特徴を事前に把握しておくことが、葬儀費用の見積もりと同じように大切です。
葬儀の後、ご遺骨の供養方法にも「想定外の費用」を作らないために
お墓を新しく建てたり、既存のお墓に納骨したりする以外にも、自宅で穏やかに故人を偲ぶ「手元供養」という選択肢があります。まとまった費用をかけずに始められる方法として、近年注目が高まっています。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、法律・税務・宗教上の判断を要する内容については、個別の事情により対応が異なる場合があります。具体的な手続きやご判断にあたっては、専門家(弁護士・行政書士・税理士・菩提寺など)にご確認・ご相談いただくことをおすすめします。
SOBANIの記事の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、SOBANIの記事の利用(その利用に付随する場合も含みます)により利用者及び第三者が被った損害については、弊社は、損害賠償責任、営業損失補償責任その他法律上、事実上を問わず一切責任を負わないものとします。

