とにかくお金がかかるイメージが強い冠婚葬祭。通夜や葬儀には一体どれくらいのお金がかかるのか。これから施主(葬儀費用を支払う人)を務める可能性がある人が、最も気になることはお金や費用に関することではないでしょうか。何にどれくらいのお金がかかるか、といった相場や水準。基本料金には何が含まれているのか。オプションでは何が要るのか。御布施はいくらか。多くの人にとって寺院や葬儀社は、日常生活の中で「ちょっと聞いてみよう」と思うほど身近な存在ではないでしょう。
葬儀は結婚式と違って、日程は未定ですので前もって予定を立てて準備しておけません。たとえ事前に葬儀社に問合わせたとしても、「○○の場合は……」と実際にいつどこでどのように亡くなったか、その時の状況によって変わります、といった返答が多いでしょう。参列予定の人数、死因や亡くなった場所、亡くなった時期や日にちによってだいたいの費用目安は分かりますが、見積もりを出してもらったとしても、金額が大幅に変わることも多くなってしまうのです。
家族が亡くなれば喪主は急な対応をしなければならず、時間がない中で細かい内容も含めて選択や決断を迫られることになります。また、葬儀はとても個人的な出来事なので友人や知人にもはっきりといくらかかったのか聞きづらい内容の話でもあります。
今回は筆者の親族のケースで、実際に東京23区内で行われた葬儀の費用明細をポイントとともに公開します。似たケースの葬儀は少ないかもしれませんが、自分の葬儀について考えている方や今後喪主を務める方の目安や参考に少しでもなれば幸いです。
1 葬儀にかかる費用項目
葬儀にかかるお金は、故人や遺族の意向、葬儀を行う場所、参列者数などによって異なります。基本的な費用項目としては、
- 御布施
- 葬儀の基本料金と葬儀会場費
- 各種車両代
- 精進落とし
- 火葬費
- 香典返し
といった内容になります。以下、筆者親族の葬儀を例に具体的に見ていきましょう。
2 筆者親族の実例
2-1 葬儀の概要
形式:家族葬
施主および喪主:故人の子
参列者:通夜約80名、葬儀約50名
全体の流れ:通夜→葬儀→火葬→精進落とし→初七日法要
会場:東京23区内葬儀社会館(通夜・葬儀会場および精進落とし)
火葬場:東京23区内民間火葬場
故人は90代、病院で亡くなりました。施主(葬儀費用を支払いう人)および喪主(葬儀を主催する人)は故人の子(60代)が務めました。通夜は死亡日から3日後の夕方から夜にかけて葬儀社会館にて行いました。翌日、葬儀社会館にて葬儀を行い、火葬場に移動して火葬、その後葬儀社会館に戻って精進落としと初七日法要を行いました。通夜の参列者は家族や親族、近所の人や知人など約80名でした。翌日の葬儀の参列者は家族・親族など約50名で、そのうち26名が火葬場に同行しました。
形式は家族葬とし、通夜・葬儀の連絡も家族、親族のみにしました。しかし亡くなったことを聞いた近所の人や故人の子の仕事関係の人なども参列し、予想を上回る人が通夜と葬儀に訪れた結果、家族葬の規模よりも大きいものになりました。
2-2 費用の概要
まず全体感をお伝えするため費用の各項目とそれぞれの金額をまとめてみました。
A.葬儀基本費用 |
99,000円 |
B.葬儀場使用料 |
320,000円 |
C.車両費用 |
132,000円 |
D.返礼品 |
80,000円 |
E.食事 |
476,368円 |
F.その他 |
15,000円 |
G.火葬場費用 |
124,770円 |
H.御布施(戒名込み) |
1,000,000円 |
I.香典返し |
420,000円 |
支出合計(A)~(I) |
3,759,475円 |
収入合計(香典) |
1,400,000円 |
3 葬儀の費用明細
具体的にA~Iのそれぞれの項目を1つずつ説明していまいります。支払先は葬儀社と寺、デパートの3者となります(火葬場には葬儀社を通じて支払い)。まずは葬儀社へ依頼した項目と支払った金額について見ていきましょう。
A.葬儀基本費用 99,000円
今回の通夜、葬儀は故人の自宅近くに葬儀会館を持つ葬儀社に依頼しました。また、菩提寺の僧侶に通夜、葬儀時に葬儀会場まで足を運んでもらう形になりました。
葬儀基本費用の内訳
- 基本葬儀料金(祭壇、祭壇撤去費用、骨壺など)750,000円
- 棺150,000円
- 遺影写真40,000円・遺影額10,000円
- 保冷処置代 40,000円
故人は足を少し立てた姿勢で亡くなっていたため、通常サイズの棺より深さのある棺が必要でした。さらに葬儀社会館の安置室における保冷処置代(ドライアイス等)が1日あたり10,000円でしたが、今回は火葬場が混んでいたため、死亡日から通夜の日まで4日分かかり合計40,000円になりました。
葬儀社選びについてはこちらをご参照ください。
サイズや素材など、棺の選び方についてはこちらもご参照ください。
死亡場所からの搬送など、亡くなった後の遺族の「初動」についてはこちらをご参照ください。
B.葬儀場使用料 320,000円
故人は病院で亡くなり、その後葬儀社の会館内にある安置室に寝台車で移動しました。葬儀式場の使用料は200,000円でした。安置室の使用料(前述Aの安置室での保冷処置台とは別)は1日あたり30,000円でしたが、今回は亡くなった日から通夜の日まで4日分で120,000円となりました。火葬までの日数はその時にならないと分からないので、安置室の使用料は予想したよりもお金がかかった部分でした。
遺体の安置についてはこちらもご参照ください。
C.車両費用 132,000円
今回は葬儀社に依頼し、死亡した病院から葬儀会館の安置室まで寝台車で移動しました(寝台車25,000円と防水シーツ5,000円)。また、葬儀会場から火葬場までは霊柩車(35,000円)とハイヤー(27,000円)、マイクロバス(24人乗り40,000円)の3台で移動しました。
D.返礼品 80,000円
会葬礼状と返礼品は、通夜と葬儀は同じものです。今回は会葬礼状と返礼品を別々に準備しましたが、「会葬御礼」として会葬礼状、返礼品、お清めの塩がセットになったものもあります。
通夜および葬儀で渡す会葬礼状は1通200円のものを100通準備しました(20,000円)。また、会葬返礼品の菓子は1個あたり500円のものを120個注文しました(60,000円)。そのうち25個は後日自宅に弔問に来た方に渡すために購入しておきました。
E.食事 476,368円
通夜には約80名が参列し、通夜ぶるまいとして寿司・オードブル等を準備し289,343円かかりました。また精進落としとして、1個あたり4,725円の弁当を26人分注文し122,850円かかりました。飲み物は両日通して合計50,000円です。また、葬儀時に自宅の留守番を3名にお願いしたので別途3個の弁当を準備しました。
F.その他 15,000円
オプションとして枕花を注文しました。枕花とは安置された故人の枕元に供える花のことです。
以上のように通夜と葬儀にかかったお金の小計(A)~(F)は、201万3368円になりました。これに消費税(10%)201,337円を加えて葬儀社への支払合計額は221万4705円でした。
次に火葬関係の費用を見ていきましょう。なお、火葬関係の費用は葬儀社を通じて支払いをしました。
G.火葬場費用 124,770円
火葬は都内の民間火葬場で行いました。火葬料金は大人1名の料金で59,000円。なお火葬料金には課税されません。その他、火葬の間に待っている休憩室使用料23,650円と、同行した26名分の椅子代と菓子、飲み物代がかかりました。この火葬場は飲食物の持ち込みは禁止なので、火葬場で火葬中の休憩室で必要な飲み物と菓子を注文しました。
火葬の流れや火葬場についてはこちらもご参照ください。
次にお寺への支払いを見てみましょう。
H.御布施(戒名込み)1,000,000円
今回のケースでは喪家がもともとお寺(東京23区内に所在)とのお付き合いが深く、戒名も代々「院号」をつけることになっており、比較的高い御布施額となっています。なお、通夜、葬儀時に僧侶に会場まで足を運んでもらっていますが、僧侶自身が自分の車で往復することから別途「御車代」は不要でした。
戒名について詳しくはこちらをご参照ください。
香典返しは後日デパートで購入し手渡しまたは書留で送りました。
I.香典返し420,000円
後日、香典返しとして65軒分の商品券を購入しました(合計402,000円)。香典返しの額はいただいた香典によって異なります。65軒中5軒は手渡しましたが、そのうち60軒は書留で送ったので1軒につき300円の送料がかかりました(商品券の送料についてはデパートや購入額によって異なります)。
ここまでが支出になり、合計額は以下のようになりました。
支出合計(A)~(I) 3,759,475円
以上をまとめてみると、施主がお金を支払った先は葬儀社(火葬料金は葬儀社経由)、お寺、デパートの3か所となりました。項目別にみると、御布施、葬儀の基本料金と会場費、各種車両代、お斎、火葬費、香典返しなどの代金で、支出額は合計3,759,475円でした。このうち香典140万円を通夜や葬儀の参列者から受け取ったので、施主がこの法要について実際に負担した金額は2,359,475円となりました。
支出・収入のまとめ
(支出)
A.葬儀基本費用 |
基本葬儀料金 |
750,000 |
棺 |
150,000 |
遺影写真 |
40,000 |
遺影額 |
10,000 |
保冷処置代 |
40,000 |
小計(A) |
990,000 |
B.葬儀場使用料 |
基葬儀会場 |
200,000 |
安置室4日分 |
120,000 |
小計(B) |
320,000 |
C.車両費用 |
寝台車 |
25,000 |
防水シーツ |
5,000 |
霊柩車 |
35,000 |
ハイヤー |
27,000 |
マイクロバス |
40,000 |
小計(C) |
132,000 |
D.返礼品 |
会葬礼状 |
20,000 |
会葬御礼品 |
60,000 |
小計(D) |
80,000 |
E.食事 |
通夜 |
289,343 |
精進落とし |
122,850 |
飲み物 |
50,000 |
自宅留守番係弁当 |
14,175 |
小計(E) |
476,368 |
F.その他 |
枕花 |
15,000 |
小計(F) |
15,000 |
小計(A)~(F) |
2,013,368 |
消費税(10%) |
201,337 |
G.火葬場費用 |
火葬料金 |
59,000 |
休憩室使用料 |
23,650 |
椅子代 |
17,160 |
菓子・飲み物 |
24,960 |
小計(G) |
124,770 |
H.お布施 |
お布施(戒名込み) |
1,000,000 |
小計(H) |
1,000,000 |
I.香典返し |
香典返し |
402,000 |
送料 |
18,000 |
小計(I) |
420,000 |
(収入)
香典 |
1,400,000 |
収入合計(香典) |
1,400,000 |
この葬儀にかかった費用という側面から、この葬儀の特長をまとめてみましょう。
- 故人が90代であるがゆえに同世代の友人の参列者は少ないものの、子どもや孫が多かったことから家族や親族の参列者が比較的多い。
- 故人のお寺とお付き合いが長く深い。
- 都市部にしては近隣の人との関係が深い。自宅と葬儀会場が近く、近所の人が訪れやすい立地だった。
以上のことから、家族葬の設定をしたものの参列者数が予想より多くなり、結果的に一般葬程度の規模になりました。会葬返礼品や香典返しの数も事前の見立てより多くなっています。御布施額も、家族の慣習により戒名に院号をつけると決まっていたために相場より高額になっています。また、火葬場が混んでいたため火葬までの日数がかかり、遺体の安置室使用料と保冷処置料がかかりました。
葬儀は、故人の家族構成や親せきづきあい、仕事や住んでいる地域、お寺との付き合いなどさまざまな要因によって内容もかかるお金も違ってきます。その時にならないと決められないこともたくさんあるでしょう。しかし、どこにどのようにお金をかけるのか、ということはすなわち故人を「どのように見送るのか」ということに他なりません。「見送り方」についてはふだんから考えたり、家族間で話したりしておくといいのではないでしょうか。
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お金をかけずに葬儀を行いたい場合はこちらをご参照ください。