「高額療養費制度」とは、支払った医療費が設定された限度額を超えたときに超えた分が払い戻しされる制度です。家計に占める医療費の負担を軽減することができます。「高額療養費制度」は死亡した方の医療費にも適応されます。今回は故人の高額療養費制度の払い戻し方法や払い戻しされる条件について説明します。払い戻しができる期間や注意点についても、詳しくチェックしましょう。
「故人」の高額療養費制度の払い戻し申請方法
1.高額療養費制度とは―故人についても対象に
高額療養費制度とは
「高額療養費制度」とは、医療費の自己負担の上限額を超えた時、超えた分の医療費が払い戻される制度です。治療が長引いたり、入院したりすると医療費は高額になりますが、そんな時にもお金の心配をすることなく治療が受けられるよう高額療養費制度が設けられています。
この制度では医療費の自己負担分の上限額(自己負担限度額)が決められていますが、上限額を超えると超えた部分がいくらであろうが払い戻されます。自己負担しなければならないのは上限額までです。
自己負担限度額は、同一月(つまり1日から末日まで)の単位で適用・計算されます。医療機関の窓口で支払った医療費や処方箋交付の上で薬局で購入した薬剤費が対象となります。また限度額は、患者の年齢や所得により異なります。
対象となるのは国民健康保険・後期高齢者医療制度・健康保険の加入者で、診療を受けた翌月から2年以内であれば、払い戻しの申請を行うことができます。
故人の医療費も払い戻しができる
闘病中や長期療養中に亡くなった場合などでも、医療費が高額になるケースがあります。故人が国民健康保険・後期高齢者医療制度・健康保険の加入者またはその被扶養者であり、医療費が上限額を超えている場合は、超えた分を払い戻してもらうことができます。
2.自己負担限度額は合算できる
自己負担限度額の計算は、同一月(1日から末日まで)のうちに複数回受診した場合、医療費を合算することができます。1回の受診費用で自己負担限度額上回っていなくても複数回足し合わせれば限度額を上回っているという場合、上回った分は払い戻されます。
複数の医療機関で受診した医療費も合算することができます。また、公的医療保険に加入している被保険者とその被扶養者は、それぞれにかかった医療費でも合算することができます。
ただし、合算の方法には気をつけておくべき細かいルールがありますので、下記の家族構成を例として、ケースごとに詳しく見ていきましょう。
夫:被保険者 50歳、妻:被扶養者 48歳、夫の父:被扶養者78歳の場合
患者が69歳以下の場合の注意点
・医療機関を受診した患者が69歳以下の場合は、その患者の医療費については受診者別、医療機関別、入院・通院別に自己負担額が21,000円以上の場合のみ合算することができる
複数の医療機関を受診している場合の注意点
- 医療機関ごとに合算できるが、医科・歯科は分類する
- 医療機関ごとに合算できるが、入院・外来は分類する
- 院外処方せんの薬剤費等は、処方せんを発行した医療機関の自己負担額と合算できる
受診者 | 病院名 | 窓口負担額 | 合算可否 | 払戻の計算対象となる合計 | |
---|---|---|---|---|---|
夫 50歳 |
A病院 | 入院 | 90,000円 | ○ | 112,000円 |
医科・外来 | 10,000円 | ○ | |||
医科・外来 | 7,000円 | ||||
院外処方 | 5,000円 | ||||
B病院 | 医科・外来 | 10,000円 | × | ||
C病院 | 医科・外来 | 15,000円 | × | ||
歯科・外来 | 8,000円 | × |
被保険者とその被扶養者が複数医療機関を受診した場合の注意点
- 同じ医療機関の受診であっても、受診者別に分類する
- 70歳以上の場合は、保険適用される診療に対する自己負担額をすべて合算できる
受診者 | 病院名 | 窓口負担額 | 合算可否 | 払戻の計算対象となる合計 | |
---|---|---|---|---|---|
夫 50歳 |
A病院 | 医科・外来 | 25,000円 | ○ | 178,000円 |
B病院 | 歯科・外来 | 15,000円 | × | ||
妻 48歳 |
B病院 | 歯科・外来 | 3,000円 | × | |
歯科・外来 | 5,000円 | ||||
夫の父 78歳 |
A病院 | 医科・入院 | 150,000円 | ○ | |
C病院 | 医科・外来 | 3,000円 | ○ | ||
C病院 | 先進医療 | 200万円 | × |
3.自己負担限度額の計算方法
医療費を自己負担する上限額、「自己負担限度額」は、被保険者(公的医療保険に加入している本人。被扶養者ではない)の年齢や所得状況により異なります。
被保険者が69歳以下の場合
上限額は被保険者の所得水準により分けられています。
被保険者の所得区分 | 自己負担限度額 |
---|---|
年収約1,160万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
年収約770~約1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
年収約370~約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
年収約370万円未満 | 57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
被保険者が70歳以上の場合
上限額が被保険者の所得水準により分けられているのは69歳以下と同じですが、70歳以上の場合は外来だけであった場合の上限額が別途設けられています。つまり、69歳以下であれば外来か入院かの区別はありませんが、70歳以上になると、もし入院が含まれる場合に自己負担限度額が引き上げられるイメージです。
また、70歳以上の高額療養費制度の上限額については、平成29年(2017年)8月より段階的に見直しが行われています。高額療養費制度の上限額は診療日により異なり、「平成29年(2017年)7月以前」「平成29年(2017年)8月~平成30年(2018年)7月」「平成30年(2018年)8月以降」の3段階に分かれて設定されています。
高額療養費制度の払い戻しは診療した翌月から2年以内が期限なため、今回は診療日が「平成29年(2017年)8月~平成30年(2018年)7月」「平成30年(2018年)8月以降」の上限額について説明します。
平成29年(2017年)8月~平成30年(2018年)7月の期間に診療した場合
被保険者の所得区分 | 自己負担限度額 | ||
---|---|---|---|
外来(個人) | 外来・入院(世帯) | ||
現役並みの所得者 (年収約370万円以上) |
57,600円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | |
一般所得者 (年収約156~約370万円) |
14,000円 (年144,000円) |
57,600円 | |
住民税非課税等 | Ⅱ 住民税非課税世帯 |
8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 年金収入80万円以下等 |
15,000円 |
平成30年(2018年)8月以降に診療した場合
被保険者の所得区分 | 自己負担限度額 | ||
---|---|---|---|
外来(個人) | 外来・入院(世帯) | ||
現役並みの所得者 | 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | |
年収約770~約1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | ||
年収約370~約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | ||
一般所得者 (年収約156~約370万円) |
18,000円 (年144,000円) |
57,600円 | |
住民税 非課税等 |
Ⅱ 住民税非課税世帯 |
8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 年金収入80万円以下等 |
15,000円 |
多数回該当
直近の12か月間ですでに3回以上高額療養費制度の支給を受けている場合は、その月から1年間、自己負担限度額がさらに引き下がります。これを「多数回該当」といい、1年間に4度目の支給から適用されます。多数回該当の自己負担限度額は、被保険者の年齢や所得水準、診療日により異なります。
被保険者が69歳以下の場合
被保険者の所得区分 | 自己負担限度額 | |
---|---|---|
平成29年8月~平成30年7月に診療 | 平成30年8月以降に診療 | |
年収約1,160万円以上 | 140,100円 | 140,100円 |
年収約770~約1,160万円 | 93,000円 | 93,000円 |
年収約370~約770万円 | 44,400円 | 44,400円 |
年収約370万円未満 | ||
住民税非課税者 | 24,600円 | 24,600円 |
被保険者が70歳以上の場合
被保険者の所得区分 | 自己負担限度額 | ||
---|---|---|---|
平成29年8月~平成30年7月に診療 | 平成30年8月以降に診療 | ||
現役並みの 所得者 | 年収約1,160万円以上 | 44,400円 | 140,100円 |
年収約770~約1,160万円 | 93,000円 | ||
年収約370~約770万円 | 44,400円 | ||
一般所得 (年収約156~約370万円) |
|||
住民税 非課税等 |
Ⅱ 住民税非課税世帯 |
適用なし | 適用なし |
Ⅰ 年金収入80万円以下等 |
4.故人の高額療養費制度の払い戻し方法
同一月(1日から末日まで)に支払った医療費が自己負担限度額を超えて高額療養費制度の条件を満たす場合は、市区町村役場や健康保険組合から通知が届きます。通知が届いたら、医療費を払い戻してもらうための申請をしましょう。
申請期限
診療を受けた月の翌月から2年以内
※ただし、死後に故人に払い戻された額は故人の相続財産に含まれるため、できるだけ早く手続きを
手続きできる人
相続人
必要な書類
手続きには以下のような書類が必要です。詳しくは郵送される通知をチェックしましょう。
- 高額療養費支給申請書
- 戸籍謄本など故人との関係を証明できる書類
- 医療機関発行の領収書
- 預金通帳など振込先口座がわかるもの
- 届出人の認印
- 故人の保険証
手続き場所
加入していた保険の種類により手続き場所が異なります。郵送でも手続きが可能です。
- 国民健康保険・後期高齢者医療制度:市区町村役場の担当課
- 健康保険:健康保険組合または協会けんぽ
5.故人の高額療養費制度の払い戻し申請をする場合の注意点
高額療養費制度の払い戻しを申請する場合には、いくつか注意点があります。故人の医療費を払い戻す場合の注意点についても、あわせてチェックしましょう。
支給されるまでの3~4ヶ月かかる
払い戻される医療費は指定口座に振り込まれますが、手続きしてからすぐに支払われるわけではありません。基本的には手続きしてから3~4カ月後に口座へ振り込まれます。
対象となる医療費は「保険適用」の分のみ
高額療養費制度の対象となる医療費は、保険適用される診療に対して支払った額になります。「先進医療など保険外の診療」「差額ベッド代」「食事代」などは高額療養費制度の対象とならないため、注意しましょう。
故人の高額療養費は相続財産に含まれる
死後に故人に払い戻された高額療養費は、故人の相続財産に含まれます。死後に払い戻された額を相続人が受け取る場合は、相続財産に含める必要があるため注意が必要です。
高額療養費制度の請求は「診療を受けた」翌月から2年以内が期限ですが、相続税の「申告期限」は死亡日の翌日から10カ月以内です。相続税の申告期限を過ぎてからの払い戻し分には、延滞税や無申告加算税などが課されます。2年あるから…とのんびりしているのはNG。故人の高額療養費を払い戻す申請は、死後落ち着いたらすみやかに行いましょう。
ただし、故人が相続人の扶養家族であった場合など、保険料や医療費を実質負担していたのが相続人であった場合は、相続財産に含める必要はありません。
ちなみに相続税の申告の有無については、高額療養費だけでなく、被相続人の預貯金・株式等・不動産などの金額を合算して、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下かどうかで判定します。基礎控除以下であればこの場合も申告の必要はありません。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html (外部リンク)