永代使用権を得た墓域に墓石を購入して建てる一般墓と比べて費用を抑えた形で利用できるお墓として「納骨堂」「集合墓」「合祀墓」などが挙げられます。これらのお墓は、墓石代がかからないといった金銭面以外にも、お墓の維持や継承という点での負担が少ないことから人気が高まっており、各地の霊園や墓地で多くみかけるようになってきました。今回は、この「納骨堂」「集合墓」「合祀墓」それぞれについて特色を紹介します。
墓石を使わないお墓(納骨堂、集合墓、合祀墓)
1 様態の細分化が進む屋内型施設「納骨堂」
納骨堂とは、一般的に遺骨の入った骨壺を納めておくことのできる屋内の施設のことをいいます。納骨堂単体として存在する施設のほか、一般墓が並ぶ霊園や墓地の一角に建てられているものも数多くあります。屋内型の施設であることから、天候を気にせずにお参りができるという点が大きなメリットとして挙げられます。骨壺の納められ方によっていくつかタイプがあり、主だったものとして「ロッカー型」「仏壇型」「自動搬送型」があります。
「ロッカー型」は、その名のとおりコインロッカーのようにしつらえられた個別の棚に遺骨を納める形をとります。「扉の有無」「納められる遺骨の数」「位牌も一緒に納められるかどうか」など、施設や利用区分によって細かな点での違いがみられます。お参りの際は、専用に作られた参拝スペースで行うことが一般的です。
「仏壇型」は、ロッカー型の派生形で、利用する棚を上下に分け、上段に仏壇、下段に納骨スペースを設けたものが基本的なスタイルです。ロッカー型と違って、個別の棚にお参りすることが可能です。
「自動搬送型」は、普段は大きな収蔵庫に遺骨が納められていますが、お参りの際に操作を行うと遺骨の入った厨子が専用の参拝ブースに自動搬送されてくるという機械化された様式のものです。外見は一般的なビルと変わりなく建てられていることが多く、特に新しくお墓を造成することが難しい都市部で増えてきています。
納骨堂に納めた遺骨は、契約の内容に合わせて一定の期間が経つと合祀されることが多いですが、なかには永代にわたって利用し続けられる施設もあります。
2 住宅に例えるとマンションのような「集合墓」
施設によって名称が異なる場合がありますが、ここでは不特定多数の遺骨を「骨壺の状態で」ひとつの場所に納めるタイプのお墓のことを集合墓と呼びます。一般墓が戸建ての住宅だとしたら、集合墓はマンションなどの集合住宅に例えるとイメージしやすいかもしれません。
集合墓単体の施設をみかけることはあまりなく、霊園や墓地の一角に墓域バリエーションのひとつとして屋外に用意されているのが一般的です。花壇などを兼ねた土台となる基礎部分に個別の遺骨を納めるスペースが作られているものや、スケールダウンした実際のマンションのように直方体の構造物の内部を区分けして個別の遺骨収納スペースを設けているもの、一般墓のスケールを大きくしたようなものなどがあります。
次に紹介する「合祀墓」の一部にもみられますが、多くの場合、壁面に設置されたプレートなどによって埋葬されている人の名前が確認できるようになっています。お墓参りについては、シンボルとなる墓石やモニュメントに向かって行うケースが一般的です。
利用する期間はさまざまで、永代にわたって利用し続けられるものもあれば、三十三回忌など一定の期間を過ぎると遺骨が合祀されるものもあります。
3 不特定多数の人と混ざって埋葬される「合祀墓」
合祀墓は文字どおり「合同」で「祀られる」お墓のことを指し、「合葬墓」と呼ぶ霊園や墓地もあります。納骨堂や集合墓との大きな違いは、「遺骨を骨壺から出したうえで」、不特定多数の人の遺骨をまとめて1カ所に埋葬する形をとる点にあります。そのため、後から遺骨を取り出して別のお墓に移すなどということができなくなるので、利用を決める際には注意が必要です。
埋葬される場所は屋内の納骨堂タイプのものもありますが、大概は屋外にあり、シンボルとなる塔や石碑などのモニュメントなどが建てられている様式を多くみかけます。最近注目を浴びている樹木葬も、合祀の形式をとっているものは樹木をモニュメントとした合祀墓のひとつだといえるでしょう。
お参りをする際には、近くに用意されている香炉や献花台を利用するのが一般的です。供養については、毎日の読経、お盆やお彼岸時の法要など施設によってさまざまですが、基本的に霊園や墓地の管理者側で行ってくれます。
4 共通のポイントは「永代供養」
自身で墓石を用意する必要がないため「お墓にできるだけ費用をかけたくない」といった事情から選択されることの多い納骨堂や集合墓、合祀墓ですが、利用者が増えているもう一つの側面として、「お墓の継承ができない」「お墓の継承を望んでいない」といった事情があると考えられます。
かつては長子相続を背景に、お墓は家督的に継承されることが一般的でしたが、家制度は廃止され、少子化が進み、ライフスタイルも多様化してきた昨今は、「跡継ぎがいない」というだけでなく「残された家族に迷惑をかけたくない」といった考えでお墓を選ぶ人も増えているようです。
実際、霊園や墓地に足を運んでみると、樹木葬をはじめとした合祀墓や集合墓の墓域を新たに追加しているところも多数あり、家族が引き継ぐことを想定していないお墓の需要が増していることがみてとれます。
これらのお墓に共通するキーワードとして挙げられるのが「永代供養」です。「永代供養」とは、未来永劫にわたる供養と遺骨の管理を霊園や墓地の管理者に依頼するもので、基本的に合祀墓では最初から、納骨堂や集合墓では契約で定めた期間を過ぎて合祀されてから行われます。どのタイミングで合祀され、永代供養を受けるかは霊園や納骨堂によってさまざまなプランがあります。概ねどのようにするかは生前の本人の意思で選び、必要な費用を先に支払っておくことが可能です。
5 自身の意向に合わせた理想的なお墓選びを
このように、似てはいるもののポイントとなる部分に違いがみられる「納骨堂」「集合墓」「合祀墓」。
「お墓にできるだけ費用をかけたくないが、ある程度の供養は残された家族にお願いしたいならば、納骨堂や集合墓」、「お墓の継承を望んでおらず、残された家族をできるだけ煩わせたくないならば合祀墓」など、自身の意向をしっかりと確認し、それぞれが持つ特色をよく考慮したうえで、ぜひ理想的なお墓をみつけてください。