「野垂れ死に」は簡単にはできない―身元不明の遺体、行旅死亡人とは?

「野垂れ死にの覚悟はできている」「野垂れ死にしてもかまわない」というセリフを聞いたことはありませんか。道ばたで行き倒れになってそのまま…。必要な介護や医療を受けず、人に迷惑をかけず、最後は一人でくたばる孤高の人。そんな自由なイメージがあるからか野垂れ死ににちょっと憧れる、という人もいるかもしれません。

しかし結論からいうと、そんなにかんたんに野垂れ死にはできません。現代の日本では遺体は基本的に火葬することになっていて、道ばたで野垂れ死んだからといって遺体を鳥がついばむ風葬は成り立ちません。遺体が発見されれば、警察や行政は亡くなった人の身元を調べ、身元が分からなかったら火葬することになります。身元が判明すれば、遺族は亡くなった場所にかけつけて解剖の結果を待つことになります。亡くなった場所が遠方であれば遺体を地元に搬送するのか、それとも火葬して遺骨にしてから帰るのか、判断を迫られます。

自分で自分の遺体を火葬し埋蔵することができない以上、人は一人で野垂れ死ぬことはできず(より正確には野垂れ死ぬことはできてもその後の始末をつけることはできない)行政や警察、身内など多くの人の手を借りて葬られることになります。今回は身元の判らない遺体が発見されたらその後どうなるのか、「行旅死亡人」(こうりょしぼうにん)についてご紹介します。

index 目次
  1. 1.死亡場所や死因問わず身元不明の遺体はすべて「行旅死亡人」
  2. 2.身元不明の遺体が発見されたらその後どうなるか
  3. 3.行旅死亡人の火葬費用負担と財産のゆくえ

1.死亡場所や死因問わず身元不明の遺体はすべて「行旅死亡人」

氏名または本籍地・住所などが判らず、かつ遺体の引き取り手が存在しない人のことを「行旅死亡人」(こうりょしぼうにん)といいます。病気や事故、自殺、他殺…どのようにどこで亡くなったとしても、身元不明の引き取り手のいない人はすべてこの「行旅死亡人」として取り扱われます。

「行旅死亡人」とは、古めかしい感じがする言葉ですがそれもそのはずです。明治期に制定された「行旅病人行旅死亡人取扱法」という法律の定義なのです。この法律では「行旅人」が死亡した場合、死亡地の自治体が行う遺体の取り扱いや火葬、埋蔵、公告の出し 方、費用負担の方法などについて定められています。

「行旅」という漢字から移動中に行き倒れて身元が分からない「野垂れ死に」を連想してしまいますが、「行旅死亡人」は亡くなった場所や死因は問わず「身元不明の遺体すべて」を指します。たとえ自宅で死亡していたとしても身元が分からない、身分証明書を持っていたとしても、身分証明書が示している本人だと断定できなければ「行旅死亡人」になります。また、遺体の損傷が激しい場合や白骨化している場合もどこの誰かを特定するのが難しい場合があります。近年は高齢の単身者で名前や住所が分からないケースや認知症などの方が一人で外出して行方不明になってしまい、そのまま死亡したが身元が不明のままというケース、大震災の身元不明の死亡者も「行旅死亡人」となります。

参考:明治三十二年法律第九十三号「行旅病人及行旅死亡人取扱法」

2.身元不明の遺体が発見されたらその後どうなるか

「行旅死亡人」の対応は死亡した場所の自治体が行い、警察と協力しながらどこの誰なのか、を調べたり、情報を集めたりします。その後身元が分からないままであれば火葬、遺骨の保管、埋蔵まで自治体が行います。

遺体発見

遺体が発見されたら市町村長は、警察、地元自治会や町内会と協力して、遺体の身元確認を行い、身元引受人を見つけるようにします。身元が明らかになったら遺族や関係者に引き渡します。

身元が分からない場合は「行旅死亡人」として取り扱われることになります。たとえ運転免許書など身分証明書を持っている場合でも、本人と断定されなければ「行旅死亡人」として扱われます。身元が分からない人については、遺体と所持品を写真撮影し、人相、着衣、特徴等を記録し、遺留品等を保管します。

火葬と遺骨の保管

行旅死亡人の場合は発見された時点で遺体が腐敗していることも多いため、自治体によってすぐに火葬されます。遺骨の保管も自治体が行うことになっています。その際の火葬費用については、「3.行旅死亡人の火葬費用と財産」で詳しく説明します。

遺骨の保管場所や期間は法的に決められているわけではないので、保管期間は自治体によって異なりますが、3か月または1年間といったところが多いようです。
千葉県市原市では、生活保護受給者や身元が分からない人の遺骨を本来3カ月ごとに合葬墓に移すことになっていました。しかし担当者が代わる際に引き継ぎをしなかったために、57体を庁舎内のロッカーに保管していたこと、中には3年以上ロッカー内に放置されていた遺骨があったことが2018年10月に分かり問題となりました。

官報(号外)に公告

警察や行政が身元を調べても分からない場合、行旅死亡人は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」によって、死亡推定日時や発見場所、所持品や外見などの特徴などが市町村長名義で、官報に掲載されます。この官報の公告によって身元不明の遺体について心当たりがある人からの情報を集めています。公告の内容は、以下の例のように死亡者のおおよその年齢や外見の特徴、所持品、発見された場所や日時などです。

官報にはインターネット版もあります。過去30日分の官報は無料で閲覧できますが、それ以前のものは官報情報検索サービス(有料)か、図書館で探すことになります。また、「行旅死亡人テータベース」という個人運営のサイトやtwitterもあり、こちらは官報の情報をベースに2010年以降の行旅死亡人の情報を掲載しています。

「インターネット版官報」
https://kanpou.npb.go.jp/(外部リンク)
行旅死亡人データベース
https://kouryo.laboneko.jp/(外部リンク)
心停止の状態で発見され、病院搬送後に死亡が確認された公告の例

行旅死亡人
本籍・住所・氏名不詳、推定年齢不詳の女性

上記の者は、令和○年□月△日○○市○○区○○1丁目1番1号で左横臥の姿勢で心停止状態で発見され、○○に所在の□□病院にて、同日午後2時2分に医師が死亡確認したものである。死因は急性心筋梗塞の疑い。身元不明につき遺体は火葬に付し、遺骨は保管しています。お心当たりの方は、○○市中央保健福祉センター社会援護第二課まで申し出てください。

令和○年□月△日 ○○県 ○○市長 △△○○

他人の私有地で発見され、服装や所持品が掲載された公告の例

行旅死亡人
本籍・住所・氏名不詳、推定年齢50〜80歳の男性

本籍・住所・氏名不詳、推定年齢50〜80歳の男性、身長約○○cm、着衣は紺色作業ズボン、黒色長袖ポロシャツ、半袖シャツ、サンダル、黒色ボクサーパンツ、ネックレス、ヘアゴム
上記の者は、令和○年□月△日午前7時頃、○○県□□市○○3番地東側納屋で発見されました。推定死亡日時は令和○年□月頃〜令和○年△月頃。身元不明のため火葬に付し、遺骨は保管してあります。心当たりの方は、□□市保健福祉部社会福祉課まで申し出てください。

令和○年□月△日 ○○県 ○○市長 △△○○

無縁墓地に合葬

遺骨の保管期間内に身内が名乗り出たり、見つかった場合には遺骨は遺族に引き渡されます。もし身元が判明せずに遺族も見つからない場合は、保管期間が過ぎたら無縁墓地に合葬されます。

3.行旅死亡人の火葬費用負担と財産のゆくえ

「行旅死亡人」の火葬や埋蔵にかかる費用には、「行旅死亡人」の所持している現金や有価証券を充てます。もし所持金が無い場合はいったん自治体が費用を立て替えて火葬を行います。その後遺骨の引き取り手が見つかった場合は、自治体は火葬・埋蔵費用を遺骨の引き取り手に請求することになります。しかし、引き取り手が費用を支払わなかったり、遺骨の引き取り手そのものが見つからないケースもあり、その場合は都道府県が費用を負担します。

「行旅死亡人」の財産の取り扱いについては、身元が分からないので故人の財産には相続人がいないことになります。しかし、一定期間は財産の相続人を探して財産の管理や処分の手続きをし、最終的に相続人が見つからなければ財産は最終的に国庫に帰属することになります。故人の遺留金から火葬や埋蔵に必要な費用に充てて、それでもまだ残っている財産がある場合は福祉事務所が保管しますが、途中で相続財産がなくなった場合はそこで手続は終わりになります。

相続財産がある場合は次のような流れで相続人を探していきます。

  • 税事務所長などが家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任請求を行い、家庭裁判所によって「相続財産管理人」(弁護士や司法書士が多い)が選任され、官報に公告されます。
  • 公告から2か月以内に相続人があらわれなかったとき、相続財産管理人は相続財産の債権者や受遺者(遺贈によって相続財産を譲り受ける人のこと)を確認するための公告をします。
  • それでも相続人があらわれないときは、家庭裁判所は6か月以上の期間を定めて、あらためて相続人を探すために公告をします(民法958条)。期日までに相続人があられなければ、相続人がいないことが確定します(民法958条の2)。
  • 相続財産管理人は相続財産の管理や処分を行いますが、もし特別縁故者(生計を共にしていたり、身の回りの世話をしていた内縁の妻や夫など)がいれば家庭裁判所の許可を得て相続財産を分与することがあります。
  • 最終的に残った相続財産は国庫に帰属することになります。

このように遺体の身元を調べることや火葬、遺骨の保管や埋蔵、遺産の取り扱いには人手や費用が必要です。火葬だけでも19万円ほどの費用がかかりタダではありません。本来は個人や遺族が負担すべき費用ですが、それができないとなれば地方自治体の財政の負担になります。どうしても野垂れ死にをしたい場合は20万円以上の現金を準備してした方がいいでしょう。それほど簡単に「野垂れ死に」はできないのです。

「身元が判明しても引き取り手がいない場合」についてはこちらの記事をCHECK!
Text by:AISA

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    骨壺の見栄えがちょっと・・・
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