相続手続きはいろいろあって大変、と想像する方も、意外に知られていない点が相続手続きに期限があることです。相続手続きの仕上げともいえる相続税の申告期限は、亡くなった日から10か月ですから、10か月以内に主要な手続きを終えなければなりません。実際に相続手続きを始めると、様々なことで意外に時間がかかり期限はすぐにやってきます。そこで今回は相続手続きにはどんなものがあり、期限はいつまでか、またはいつまでに行えばスムーズかを解説します。
3、4、10ヶ月…期限に注意! ―相続の様々な手続きと流れ
相続に関する手続きには、金融機関等でのこまごまとしたものから、相続登記という大きなものまで様々です。ここでは時系列で何をするのか、全体像を見ていきましょう。日付は亡くなった方(以下、被相続人)が亡くなった日から起算します。
3か月以内にする相続手続き
3か月以内に行う相続手続きは多岐にわたります。一つずつ片づけていくのでは時間が足りないので、同時並行で手続きをしましょう。
遺言書の存在を確認
被相続人の死亡後、できるだけ早い段階で遺言書が存在しているかどうかを確認しましょう。けれども「自筆証書遺言」の場合には勝手に開封してはいけません。これが悩ましいところです。葬儀に関する希望が書かれているかもしれないし、急いで開封したいと思うかもしれませんが、開封には家庭裁判所の「検認」の手続きが必要です。
遺言書に遺産の分割方法が書かれている場合、基本的にはそれに沿う形で相続が行われます。遺言書が存在していない場合には、相続人全員による「遺産分割協議」という話し合いで相続分を決めていきます。このため、遺言書が存在しているかどうかを早い段階、死亡後3か月程度で確認することをおすすめします。
遺言書の検認の手続き
遺言書には3つの形式があります。自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言です。このうち自筆証書遺言が最も手軽に作成することができるので、残されている率も高いでしょう。しかし自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合には、見つけたからといって勝手に開封してはいけません。被相続人の最期の住所地が属する家庭裁判所に「検認申し立て」をします。
なぜ検認が必要なのでしょうか?それは自筆で書かれた遺言書を誰かが勝手に開封し、内容を変更したり書き加えたり、さらには破棄することを防ぐためです。封入されている遺言書の場合に検認をせずに勝手に開封すると、5万円以下の罰則が科されることがあります。封入されていない遺言書の場合でも、検認が必要です。
検認を申し立てると、後日家庭裁判所から相続人に対して検認の期日が伝えられます。検認に必要な期間は約1か月、場合によっては2か月近くかかることがあります。そのため自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった場合には、遺言書が見つかり次第、死亡後3か月以内程度で検認の申し立てをすることをおすすめします。検認当日は家庭裁判所で、出席した相続人の目の前で遺言書の開封と確認が行われます。これが終わると検認済証明書が発行され、それを遺言書に添付することができます。自筆証書遺言や秘密証書遺言は、検認済証明書がついていないと不動産などの名義書換もできないので、必ず早めに検認を受けましょう。
相続人の調査
遺言書が見つからなかった場合は、相続人全員が参加する「遺産分割協議」という話し合いをします。この話し合いで法定相続分を目安にしながら、相続人それぞれの相続財産を決めます。この遺産分割協議は、必ず相続人全員が参加しなければなりません。協議が終わってから新しい相続人が発見・名乗り出た場合には、先の協議内容は無効になり、やり直しとなります。二度手間になってしまうような事態を防ぐためにも、あらかじめ誰が相続人なのかを確定する調査が必要です。
被相続人の子ども時代から、死亡までの戸籍謄本や除籍謄本、改正原戸籍謄本を取り寄せて、家族の知らない前婚の履歴が無いか、またその際に子どもはいたか、などを調査して相続人を固めます。被相続人が本籍を転々としていた場合には、この書類獲得だけでも時間がかかります。そのため相続人の調査は被相続人の死亡後3か月程度を目安に始めることをおすすめします。
金融機関への被相続人死亡の届け出
誤解されている方が多いのですが、役所に死亡届を出すと自動的に金融機関に被相続人の死亡が通知される、などということはありえません。けれども稀に、有名人や地元の名士など多くの人が知っている被相続人が亡くなった場合には、金融機関が被相続人の死亡を新聞のお悔やみ欄で知ったり、取引先から情報を得て被相続人の死亡を把握したりすることがあります。すると金融機関は相続人などに連絡をせずに、被相続人名義の口座を凍結することがあります。そのため、相続人が気づいた時には被相続人の金融機関講座が凍結されていた、ということも稀に発生します。
被相続人の残した金融資産は、死亡した時点で一時的に「全相続人の共有財産」になります。そこで誰かが勝手に被相続人名義の預金を引き出したりしないように、死亡後できるだけ早い段階、遅くとも死亡後3か月以内に金融機関に被相続人の死亡を伝え、預貯金の取引を停止してもらうことをおすすめします。その際に、死亡日現在の残高証明書を発行してもらいましょう。後で相続財産を確定する際に役に立ちます。
生命保険金の受け取り手続き
被相続人がなんらかの保険に加入していた場合には、死亡によって保険金が支払われることがあります。そこで契約時に指定されている保険金受取人は、生命保険会社などに連絡をして生命保険金の受取申請をします。生命保険金は、原則的に遺産の範囲に入りません。この点が銀行の金融資産と異なります。
遺産ではないので、相続人の共有財産という扱いにはならず、指定された受取人固有の財産になります。そのため保険金受取人が単独で、生命保険会社などに連絡をして生命保険金を受け取ることができます。これも後の雑事に忙殺される前に、死亡後3か月程度を目安に行うことをおすすめします。
健康保険や遺族年金の手続き
被相続人は通常、なんらかの健康保険(社会保険や国民健康保険)や年金(企業年金や国民年金)に加入しています。そのため相続人は社会保険団体から給付金(埋葬料、葬祭費)を受けとることができます。
埋葬料は被相続人が保険加入者の場合に給付されます。加入していた保険にもよりますが、だいたい1~5万円程度が多いようです。また被保険者が死亡前に被保険者の資格を失っていた場合でも、死亡から3か月以内に申請すると給付されます。葬祭費は、死亡から2年間が給付申請期間です。申請すると1~3万円程度が支給されます。埋葬も葬祭も被相続人の死亡後すぐに支払っているものですから、受給申請を忘れないように死亡後3か月程度ですることをおすすめします。
また遺族年金が支給される場合もあります。これは申請期限である死亡日から5年を超えるとその権利が時効となってしまいますので注意が必要です。(国民年金法第102条第1項・厚生年金保険法第92条第1項)。
こうした給付金や年金に関する手続きも申請主義なので、相続人が何もしないでいると給付も年金支給も受けられません。健康保険組合や市町村、年金事務所などに死亡後3か月程度を目安に連絡をしましょう。
相続財産の調査をする(探す場所・ポイント)
そもそもどんな相続遺産がどのくらい、どこにあるのか分からないと、遺産分割協議が始められません。そのため下記の場所を中心に、死亡後3か月程度を目安に相続財産に関する資料を探していきます。
被相続人が住んでいた家の収納の中
被相続人が住んでいた家が持家の場合、その権利を証明する不動産登記識別情報通知書(以前の登記簿に変わるもの)を探します。さらに預貯金通帳や、自宅以外の不動産の権利を証明するもの、権利証書、債務証書、株式証券、保険加入証、クレジットカードなどを探します。
残された郵便物
被相続人が捨てずにまとめていた郵便物の中には、情報がたくさん残されています。例えばクレジットカードの明細があれば、まだ支払いを終えていない費用があるかもしれません。また固定資産税の納税通知書があれば、不動産登記識別情報が見つからない場合に、役立ちます。銀行や保険会社からの手紙があったら、調べた通帳類や保険証券以外の預貯金や保険以外のもの無いかを確認できます。
被相続人のパソコンの中
現在はネットバンキングやネット証券を利用している人も多くいますので、被相続人のパソコンやスマートフォンからそういった取引の痕跡がないかを調べます。もしあった場合には相続人の権利として、残高や取引情報を得ることができます。
市町村役場にある名寄帳
名寄帳とは、市町村の固定資産税を担当する部署が持っているものです。名寄帳にはその市町村の全ての固定資産の持ち主が記載されていますので、その市町村にある被相続人名義の不動産を一覧で見ることができます。名寄帳は相続人であることを証明すれば、発行してもらえます。なお東京23区内の場合は、区役所ではなく、その地域を管轄する都税事務所で発行してもらえます。
金融機関の残高証明書
金融機関に被相続人の死亡を届け出た際に、一緒に死亡日現在の残高証明書を取得しましょう。これで相続財産となる預貯金の額が確定します。
遺産分割協議の開始
相続財産の全体像がわかり、さらに相続人が確定したら、遺産を誰にどれだけ、どんな風に分けるのかを決める遺産分割協議を始めます。遺産分割協議は、相続人全員で話し合う必要があります。そのため被相続人が認知していた子や前妻の子、疎遠な人であっても、遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
相続人の中に未成年がいる場合、未成年者は基本的に法的な責任を伴うことはできないため、通常は親権者がその代理人になります。けれども相続の際には、未成年者の親も相続人になっている場合が多くあります。その場合には、親と子の利益がぶつかってしまうので、未成年者の特別代理人が必要になります。これは家庭裁判所に申立てて選任してもらいます。また相続人の中に認知症の人などがいて、自分で遺産分割協議を進めるだけの判断能力が無いとみなされた場合には、家庭裁判所に成年後見の申立をして、後見人をつけてもらう必要があります。
こうして相続人全員が揃って、遺産の分割方法について話し合いが始められます。理想的には相続人全員が一堂に会して話し合いをすることですが、遠方の人がいるなどの場合は、物理的に一か所に集まって協議することは必須ではありません。メールや電話、FAXなどで連絡を取り合うことも可能です。この話し合いは、意外に時間がかかります。1回では終わらず数回にわたる場合もありますので、十分に時間的な余裕を持って始めるために、死亡後3か月程度くらいを目安にすることをおすすめします。
最終的に相続人全員が納得した遺産分割協議の内容を「遺産分割協議書」に記載します。そこに必ず相続人全員の署名、実印による捺印をしてもらいます。これで相続人全員がこの遺産分割協議に納得した、という証明になります。
遺産分割協議がうまくいかなかった場合の遺産分割調停
遺産分割協議を行っても、残念ながら全員が納得する分割案が出ない時には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。遺産分割調停は、家庭裁判所の調停員が入って話し合いを進めてくれます。この話し合いによって、全員が納得する結果が得られたらそれを遺産分割協議書にまとめます。
相続放棄の選択と申述
遺産相続、と聞くと土地や預貯金がもらえるプラスの面だけを考えがちですが、遺産にはマイナスのものもあることはご存知でしょうか?被相続人が残したローンやクレジットカードの残高、さらに事業ローンなどの借財なども、相続遺産として、相続の対象になります。借財が大きすぎると判断した場合には、相続放棄をすることができます。
ただし相続放棄はプラスの遺産はもらって、借財だけを相続放棄したいというように、一部分だけを取り出して放棄することはできません。プラス面もマイナス面もあわせて全てを相続するか、それともプラス面もマイナス面もあわせて全部を放棄するか、2つに一つを選ばなければなりません。
相続放棄は、被相続人が死亡したこと、また遺産の中に借財があることを知った日から3か月以内に行わなければ無効になります。具体的には被相続人の住んでいたところを管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行います。これが認められると、借財を相続する必要が無くなります。
4か月以内にする相続手続き
4か月以内にする相続手続きは一つだけです。
被相続人の所得税の準確定申告
相続の際には、被相続人の「所得税の準確定申告」が必要なケースがあります。所得税の準確定申告とは、被相続人が所得税の申告義務がある場合に、相続人が代理で確定申告をすることです。例えば被相続人に不動産収入がある場合や、投資などで利益を上げていた場合には、被相続人が生きていたら、その事業年度の確定申告をしなければなりません。けれども亡くなってしまったので、事業年度の途中で、相続人が代わりに確定申告をする、というものです。また被相続人が給与所得者で2000万円以上の収入があった場合や、 収入額に関わらず医療費や寄付金などの控除を受けたい場合にも、準確定申告をする必要があります。
準確定申告をすると、多額な医療費を支払った場合などに還付金が発生することがあります。これは遺産分割協議が終わっていたらそれに従った割合で相続人が相続します。もし遺産分割協議が終わっていなかったら、法定相続分に従って相続します。一方で、所得税を納税しなければならない場合もあります。この場合も、遺産分割協議が終わっていたらそれに従った割合で、または遺産分割協議が終わっていない場合には法定相続分に従って相続人が納税の義務を負います。
また準確定申告は、死亡から4か月の期限内にしないと加算税(適切な申告をしなかった人への罰則的な税金)や、延滞税(納期以内に納税しなかった人への利息的な意味の税金)が加算される場合がありますので、注意が必要です。
混乱する方も多いのですが、準確定申告は被相続人の死亡後4か月以内に行わなければなりません。通常の確定申告は、事業年度の翌年の2月16日から3月15日までですが、準確定申告はこの時期まで待ってはいけません。注意しましょう。
10か月以内にする相続手続き
10か月以内にする相続手続きは、これまでに行ってきた話し合いの結果を元に各公的機関に届け出をすることが中心になります。
遺産分割協議書の作成
3か月頃から行ってきた遺産分割協議。その話し合いが終わり、全員が納得する結果を得られたら、それを証明する書面にまとめます。これが遺産分割協議書です。遺産分割協議書には、具体的に誰が何をどの割合で相続することになったかを記載します。特に「何」については、その名称や所在地などを具体的に正確に書き入れましょう。遺産が特定できないと、せっかくの話し合いが無駄になってしまいます。
例えば預貯金の場合には金融機関名と支店名、預金の種類、口座番号までを書きましょう。不動産の場合は、以前は登記簿謄本と呼ばれた「不動産の全部事項証明書」の表題部をそのまま書き写します。全部事項証明書の地番や家屋番号などの表示は、住所表示とは違う場合がありますので注意しましょう。
最後に相続人全員の署名と実印による捺印、さらに割り印をします。遺産分割協議書は相続人の数だけ作成し、一人一部を保管します。これから行う相続による不動産の名義変更などの際に、証拠となる重要な書類なので、紛失しないように気をつけましょう。
相続税申告と納付手続き
遺産相続をした場合に、相続財産の総額が基礎控除額内(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)より多い場合には、相続税が発生します。相続税の申告と納税は期限があり、それが相続開始日(=被相続人の死亡日)から10か月以内です。申告だけでなく、納税までを10か月以内にしなければならない点に注意が必要です。またこの期限を超過した場合には、利子税という延滞税がかかってきます。支払う税金がどんどん増えることになりますので、期限を守って申告・納税をしましょう。
遺産分割協議が10か月以内にまとまらなかった場合
遺産分割協議が相続税の申告・納税期限の10か月以内にまとまらなかった場合はどうなるのでしょうか?この場合でも相続税の申告・納税の猶予はありません。そのため相続税の申告・納税期限内に、いったん法定相続人が、法定相続分に従って相続税の申告と納税をするケースが多く見られます。その後、遺産分割協議がまとまった際に、その内容に応じて更正請求をします。そして遺産分割協議書でまとまったとおりの割合で相続税を再計算します。最初の申告の際に払いすぎている場合は払いすぎた分の還付を受けられます。一方で支払いが足りなかった場合は、追加で支払うことになります。
その他の相続手続き
その他、預貯金などの払い戻しや株式名義の書き換えなど金融機関に関するものが多くありますが、それ以外にも不動産の名義書換、ゴルフ会員権の解約または名義書換などがありあます。不動産の名義書換を除く手続きは、作成した遺産分割協議書を持参して自分がその財産の相続人であることを証明すると可能になります。
預貯金などの相続手続きの期限
特に期限が決められていない相続の手続きも多くあります。けれども預貯金などの場合には、商法の規定により銀行の場合は5年、信用金庫などは商法の適用外のため10年の時効があります。しかし実際には時効を超えたから、と言って一方的に預貯金や証券などが取り消されてしまうことは、今のところありません。けれども相続が決まって相続人となったら、早めに相続手続きを行うことをおすすめします。
商法第五百二十二条(商事消滅時効)
商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。
不動産の相続手続きの期限
各種の相続手続きの中で、最も手間がかかるものは、不動産の名義書換です。被相続人名義の土地や建物などの不動産を相続人の名義に書き換えをします。遺言書または遺産分割協議書と法務局が指定する書類を揃えて法務局に登記申請をします。不動産の名義書換は相続登記と呼ばれていますが、これには期限が設定されていません。相続人が決まってから何十年も名義の書き換えをしなくても罰則はありません。
しかし自分が相続人となった段階で名義書換をしておかないと、自分が亡くなった時に相続人となった子供たちに大変な思いをさせてしまいます。子供たちは、親(子供たちから見れば2世代前)から自分(1世代前)への名義書換、さらに自分(1世代前)から子供たち(現世代)への名義書換と、2回分の名義書換をすることになります。これは、大変複雑な手続きとなってしまいますので、やはり不動産を相続した場合には、できるだけ早急に名義書換をしましょう。
相続手続きの節目は3か月、4か月、10か月
ここまでのように、相続手続きは多岐にわたり、期限も様々です。とりわけ気をつけたいポイントとして、3か月(各種手続き)、4か月(被相続人の準確定申告)、10か月(相続税の申告と納付)と覚えておくとよいでしょう。とくに相続税申告の10か月という期限については、遅れると利子税がついてしまうことから、期限内に申告・納付を完了させたいところです。
こうして手続き全体をみると、かなりの準備が必要であることがわかってきます。10か月という相続税の申告期限だけを見ると「なんとかなるかな」「十分な時間がある」と思うかもしれません。しかし、相続税の申告には遺産分割協議書を作成しなければなりません。そのためには、たくさんの資料を集め、さらに話し合いをする、という場合によっては面倒な手続きが必要になります。相続手続きについては、全体のタイムスケジュールを考えながら、効率よく準備をすることが大切です。
行政書士・FP 田中真作
相続や離婚などの一般市民法務相談や各種許認可業務など幅広く対応。
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