汚れや劣化の目立つ仏壇の扱いに困ってはいませんか?こまめに掃除をしなくてはいけないと分かっていながらも忙しい毎日に追われてしまう。いざ掃除をしようと思っていてもついつい億劫になる。こうして年月が経ってしまうことで、仏壇のいろいろに汚れがたまり、劣化が進んでいきます。
もちろん、新しくお仏壇を買い替えるのも方法の一つですが、その分費用がかかってしまいますし、なによりもご先祖様が大切にしてきたお仏壇を処分するのは抵抗もあるでしょう。
そのようなことでお悩みのあなたには、仏壇のリフォームがおすすめです。現在お祀りしている仏壇を少しでも長く使いたい方のために、仏壇のリフォームについて「完全修復」「洗浄」「クリーニング」の3つに分けてご紹介いたします。仏壇では気持ちよく手を合わせたい。そんな願うあなたにとって、少しでもこの記事がお役に立てるよう綴ってまいります。
1.仏壇リフォームの前の事前知識
長年の使用による仏壇の劣化。プロの手にかかるとみごとに再生できることが多いものですが、具体的な説明に入る前に、まずは仏壇がどのような工程を経て作られているかについて確認しておきましょう。仏壇のリフォームについて知るには、仏壇がどのように作られているのかを把握しておいた方が理解しやすいからです。
仏壇は分業制で作られていきます。もっとも複雑で作業工程の多い金仏壇を例にとって、いかに1つの仏壇を作るためにたくさんの職人の手が加わっているかをご説明してまいります。
1-1 木地
木地とは仏壇の骨組みとなる木地のこと。200を超えるとも言われている仏壇の各部材を木地師が仕上げ、仮組みするところから仏壇づくりは始まります。仏壇の木地に使われる木材は、ヒノキ、マツ、ケヤキ、杉などがあります。最近ではコストを落とすためにMDFと呼ばれる合板も選ばれています。
1-2 彫刻
仏壇の中には、欄間、柱、框などさまざまな箇所に趣向を凝らした彫刻が施されています。天女(てんにょ:天に住むとされる伝説上の存在)、瑞雲(ずいうん:めでたい兆しの時に現れる五色の雲)、鳳凰(ほうおう:中国の神話上の伝説の鳥)、四君子(しくんし:蘭、竹、菊、梅の4種のことで、中国では草木の中の4つの君子として崇敬されている)など、仏教経典の中でも縁起のいいとされているものがモチーフに選ばれています。
1-3 宮殿(くうでん)
浄土真宗の金仏壇の場合、ご本尊である阿弥陀如来は宮殿と呼ばれる屋根のついたお堂の中で祀られます。大変繊細な屋根と柱でできており、職人の熟練の技術が求められます。
1-4 漆塗り
金仏壇のことを「塗仏壇」とも呼ぶほどに漆塗りは大切な行程です。漆は2つの役割を果たします。ひとつは木材を保護して美しいつやを表現してくれます。もう一つは金箔の接着剤としての役割。ただし、最近では本物の漆は希少のため大変高価で、代用漆(カシューの樹液)やウレタン塗装なども用いられています。
1-5 金箔
金仏壇の象徴である金箔が、極楽浄土の絢爛豪華な世界を表現してくれます。金箔の薄さは0,0001ミリとも言われ、その作業は繊細を極めます。
1-6 蒔絵
蒔絵とは、漆工芸の伝統的な技法のことで、金粉や銀粉を撒いて漆器に図柄や文様を描き出します。こちらも彫刻と同じで、天女、鳳凰、四君子などがモチーフとして選ばれます。
1-7 錺金具(かざりかなぐ)
錺金具とは、仏壇の表面に打ち付けられる金具の装飾のことです。銅板や真鍮板などが用いられます。お仏壇を絢爛豪華にしてくれるだけでなく、それぞれの場所の補強や傷の予防などの役割も担います。
このような各工程でそれぞれの職人の技が発揮されて、ひとつの仏壇ができあがるのです。ちなみに、唐木仏壇の場合は、金仏壇ほど複雑ではありません。金箔押しや蒔絵、錺金具などがないからです。しかし、木地、彫刻、塗装、組み立てなどと、やはり細かい工程をひとつずつ経て、ひとつの仏壇を作りあげていきます。それではここから、仏壇のリフォームについて、3つの方法をご紹介いたします。
2.完全修復
完全修復とは、仏壇を新品同様にきれいにすることです。解体の上、部材すべてを木地の状態に戻し、そこからひとつひとつを修復し、再度組み立てていきます。
2-1 解体
まずは仏壇を解体します。膨大な数の部材と、表面に打ち付けられた金具をひとつずつ丁寧に外していきます。
2-2 塗箔の除去・木地補正
解体した部材の漆や金箔をすべて除去します。古い状態の下地が残っていると新たな塗装がきれいに仕上がらないからです。また、木は生き物ですから長い年月を経て木地が痩せたり割れていたりすることもあります。そのような場合は木地を補正、あるいは新調し、万全な状態に整えます。
2-3 金具の洗浄・色付け直し
取り外した金具は、錆び、あるいは色あせを起こしていることもしばしばです。表面を洗浄して、色付け直し、あるいは金メッキ塗装をします。
2-4 塗り・箔押し・組み立て
塗箔の除去、そして木地を補正しますと、あとは新品の仏壇を作るのと同じ工程に入ります。部材ひとつひとつを漆で塗り、金箔を押す。場所によっては彩色や蒔絵を施してから、仏壇を組み立てていきます。
完全修復の納期と費用
仏壇の完全修復は、2ヶ月から3ヶ月ほどの期間を見ていた方がよいでしょう。同じ大きさの新しい仏壇を買うくらいの費用がかかります。一般的な半間(約90cm)の仏間に納まるお仏壇の場合、金仏壇で100万円~200万円、唐木仏壇では50万円~100万円近くはするでしょう。
3.洗浄
洗浄とは、仏壇を解体して、専用の薬剤で表面の汚れを落とすことです。普段のお掃除では手の届かない場所までくまなく薬剤がしみ込むので、汚れがきれいに落ちます。
3-1 完全修復との違い
完全修復と洗浄とは、いったい何が違うのでしょうか。完全修復では、仏壇の解体、漆箔の除去、木地の補正を経て、そして部材をひとつひとつ塗り直してから組み立てていきます。それに対して洗浄では、塗箔の除去、木地の補正はしません。漆の塗り直しや金箔の押し直しもない分、作業工程が少なく、完全修復に比べるとリーズナブルです。
あくまでも表面の汚れ落としだけなので、仏壇の骨組みとなる木地の補正はできません。また、小傷や割れなどの修復もオプションとなるでしょう。
3-2 用いられるのは専用の薬剤
仏壇の洗浄で用いられるのは専用の薬剤です。薬剤をふきかけると泡が付着し、ゆっくりと表面のよごれを吸い取ってくれます。金箔や漆の部分に直接吹きかけても安心な成分でできており、仏壇を傷めることなく汚れを落としてくれます。
3-3 部分修復も対応可能
どうしても洗浄だけでは解決できないものもあり、部分的な修復にも応じてくれます。「扉はよく見える場所だから、ここだけは金箔押しをしてほしい」「障子が破れているから貼り直してほしい」など、洗浄と修復の組み合わせで仏壇をよりきれいにするというのも方法のひとつです。
3-4 仕上がりは業者によって異なる
仏壇の洗浄はあくまで汚れ落としです。完全修復ですと、新品同様の仕上がるになることがある程度保証できます。しかし洗浄の場合、「きれいになる」基準が人によって異なるため、業者との間にトラブルが生じることもあるでしょう。
業者選びの際は、洗浄でできることとできないことの確認、さらには施工例を見せてもらうことをおすすめします。どのような汚れがどれくらいきれいになるのかを具体的に示してもらうことが大切です。
洗浄の納期と費用
納期は2週間から1ヶ月が目安です。費用は一般的な半間(約90cm)の仏間に納まるお仏壇の場合、金仏壇で30万円~80万円、唐木仏壇では20万円~50万円近くはするでしょう。
4.クリーニング
クリーニングとは仏壇の掃除のことです。仏壇店や専門業者のスタッフが自宅までやってきて、仏壇の掃除をしてくれます。いったん仏具を外に出し、普段なかなかできないような箇所まできれいに仕上げてくれます。
あくまでも家の人でもできるレベルの掃除をプロが行う程度のサービスだと思っていればよいでしょう。中には、特殊洗浄液を用いるところもあります。作業内容は業者によってバラつきがあるので、必ず事前に確認しておきましょう。
クリーニングの納期と費用
作業時間は半日程度。費用は一般的な半間(約90cm)の仏間に納まるお仏壇の場合で1万円から3万円くらいでしょう。
5.おうちでできるカンタンお掃除の方法
どんなに高価なものでも、定期的に業者にメンテナンスしてもらっても、仏壇を長持ちする一番の秘訣は、普段からのお掃除です。仏壇の中は構造が複雑で、仏具も細々したものがたくさんあり、ついついやる気が失せてしまうものです。この章では、だれもが簡単にできる仏壇のお掃除の方法をお教えいたします。
5-1 仏さまとご先祖さまにごあいさつ
まずは仏さまやご先祖さまにごあいさつをします。「これからお掃除をするために少しうるさくしますが、よろしくお願いいたします」と手を合わせましょう。
5-2 写真を撮って仏具の場所を把握する
多くの人は、「さあやるぞ!」と勢いあまって仏具を外に出し始めます。何も悪いことではないのですが、あとで困るのは仏具を戻す時。「この仏具はどこに置けばいいんだっけ?」と迷ってしまうこともしばしばです。そうならないためにも、作業前には、スマホなどで現状のようすを写真に収めておきましょう。
5-3 仏具を取り出す
中にある仏具はいったんすべて外に出します。このときに、金属、瀬戸物、漆器と、材質別に分けておくと、あとのお掃除が便利です。
配線がされていることも多いため、線を引っ張ったり、仏具が倒れないよう充分に気を付けましょう。どうしても外せないものは無理をしなくても構いません。
5-4 仏壇本体の掃除
仏壇の中に物がなくなったら本体のお掃除の開始です。まずは毛払いなどでほこりを払い、そして拭き掃除をします。この時に使用する布は、漆や塗装を傷つけないため、極力やわらかいものがよいでしょう。お仏壇の表面を傷つけないために乾拭きが望ましいのですが、しつこい汚れがある場合は水拭きしても構いません。ただし、しっかりとしぼった布で水拭きし、その後すぐに乾いた布で拭き上げるようにします。水気を残さないことが大切です。なお、洗剤の使用はあまりおすすめしません。仕上げにワックスを用いると、つやが出て、よごれの防止にもなるためおすすめです。専用のワックスは仏壇店で販売されています。
なお、金仏壇の金の部分は絶対にさわらないようにしましょう。金箔が剥げ落ちてしまいます。
5-5 仏具の掃除
仏壇本体の掃除が終わったら、次は仏具をひとつずつきれいにします。金属、瀬戸物、漆器とそれぞれやさしく拭くのが基本です。こちらも乾拭きが基本ですが、しつこい汚れの場合は、水拭きの上、乾いた布で拭き上げましょう。また、表面を塗装しているものや柄が入っているものは、強く拭きすぎるとはがれてしまう恐れがあります。くれぐれも傷つけないように気をつけましょう。
金属製仏具は、真鍮製、銅製、アルミ製などがあり、真鍮製であれば磨けばきれいに光り輝きます。ただし、最近では掃除の手間を省くために金メッキ加工をしているものが多いため、その仏具が磨いていいものなのか、仏壇店に相談しましょう。
5-6 お供え物
お掃除の際はお供え物も新しくしてあげましょう。お花やごはんやお茶などを入れ替え、お線香を立てる灰も、ある程度たまったら上積み分を捨てましょう。
5-7 お参り
お掃除が終わったら、「無事にきれいになりました」と、手を合わせてお参りをします。ご先祖さまもあなた自身もすがすがしい気持ちになれるでしょう。
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仏壇はご先祖様がおられる場所。手をあわせることで自分自身と向き合うことにもなります。仏壇をきれいにすることで、きっとご先祖様も、そしてあなた自身も、すがすがしい気持ちで一日を迎えられることでしょう。作業の内容によって、予算が大きく変わるのが仏壇のリフォームです。自分たちの予算に合わせて、無理のない方法で検討してみてはいかがでしょうか?