位牌とは、故人様やご先祖様の名前を記した木の板のことです。死者の戒名や、生前の名前、命日、年齢などを記して仏壇の中で祀ります。この記事では位牌の意味や成り立ち、白木位牌と本位牌の違い、素材やデザインの種類、選び方などを解説してまいります。
位牌の意味と、選び方、祀り方
1 位牌とは
1-1 位牌とはご先祖様そのもの
昔の人は「火事の時には何よりも先に位牌を持って逃げる」と言っていたほど位牌は大切にされてきたものです。位牌はご先祖様の依代(よりしろ)、つまり魂がよりつくものと信じられ、礼拝の対象とされています。言ってしまえば、亡き人そのもの、ご先祖様そのものなのです。
この感覚は現代の日本でも引き継がれています。平成16年に新潟県で起きた中越地震では、一時避難が許された被災地の住民たちが、先祖の位牌を大切に持ち出し、その姿はテレビで報じられ、大きな印象を私たちに残しました。ご先祖様とのつながりこそが、日本人の死生観の根幹であり、その象徴が位牌なのです。
1-2 位牌の由来-中国、儒教、禅宗
仏教とあわせて、日本の死者供養に大きな影響を与えているのが儒教です。そして位牌は、儒教による先祖祭祀をルーツとしています。
「魂魄(こんぱく)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。古代の中国人は、人間の生命を支えるものに「魂」と「魄」という2つの異なる存在があると考えていました。「魂」は目に見えない気のようなもので、「魄」とは死者の肉体、つまり白骨のことです。亡き人の魂は天に昇り、魄は地に還る、と。ご先祖様とのつながりを大切に考える儒教では、死者の「魄」に「魂」を降ろす儀式を定期的に行っていました(招魂再生)。この「魄」として用いられるのが、亡き先祖の頭蓋骨。古代の中国人は頭蓋骨を大切に保管し、儀式の時には祭壇で祀り、死者の魂降ろしを行いました。
やがて頭蓋骨は、「木主」や「神主」と呼ばれる木の板となります。こうした中国古来の習俗と、仏教の卒塔婆が合わさったのが位牌といわれています。そしてそれが禅宗とともに日本に伝来したと言われています。どの位牌を見てみてもその頂部は丸いのですが、これはその原型が人間の頭蓋骨だからだと言われています。
ちなみに、現在の葬儀の原型も、鎌倉時代に禅宗とともに中国から日本に伝来したものです。禅宗の葬法は、禅僧の集団規則を示している「禅苑清規」という書物の中に書かれており、北枕や逆さ屏風や三具足など、いまの葬儀に通ずるものが数多くあります。
2 白木位牌と本位牌-四十九日で切り替える意味
2-1 白木位牌と本位牌
葬儀の時に用いる位牌は白木位牌です。これは仮のものとされ、四十九日まで祀ります。そして四十九日法要では本位牌を用意して、死者の魂を白木位牌から本位牌へと移し、その後は本位牌を永く家の仏壇で祀ります。しかしどうして白木位牌と本位牌を分けるのでしょうか。それは四十九日法要の意味と関係があります。
2-2 死者を「祖霊」にする四十九日法要
四十九日法要は、死者供養を行う上でとても大切な区切りとなる儀式です。古代インドで始まった仏教では、人は死後49日を経て、来世の行き先が決まるとされています。この49日間を「中陰」や「中有」と呼びます。亡き人が来世でよい世界に生まれ変わるようにと、人々は生前から善徳を積み、死者を供養するのです。
一方、日本の民俗でも、四十九日で死者は先祖の仲間入りを果たすと考えられています。昔の人は、死後まもないものの霊のことを「荒魂(あらみたま)」と呼び、49日間物忌みをして供養することこの魂を鎮めようとしました。四十九日法要を経た魂は祖霊となり、これを「和魂(にぎみたま)」と呼びます。
2-3 なぜ白木位牌を本位牌に切り替えるのか
このように、四十九日法要の意味を理解すると、なぜ白木の位牌を本位牌に切り替えるのか、すっと飲み込めるのではないでしょうか。
白木の位牌は死者の位牌であり、本位牌は先祖の位牌なのです。四十九日法要を経ることで、死霊は祖霊へと昇華します。「葬具」つまり葬るための道具から、「仏具」つまり仏様を礼拝するための道具へと切り替えることを意味します。
2-4 葬具は「急ごしらえ」でなくてはならない、ゆえの「白」
実は「白」を用いるのは位牌だけではありません。さまざまな葬具に「白」が用いられています。遺骨飾りの祭壇も白木のものを用い、白布を掛けます。花立や火立や香炉なども白無地、仏膳も白木のお膳に白無地を並べます。ちなみに、江戸時代までは、喪服も黒ではなく白のものが用いられていました。
なぜ、白が用いられるのでしょうか。そこには観念的な意味と、物理的な意味と、2つの理由があると思われます。
ひとつには、観念的に弔いの色を白としたからです。日本では弔いの色は白です。葬儀で供えられる花は白菊ですし、喪服の色が白だったことは先ほども触れました。故人が身に着ける死装束も白ですし、遺族が白の喪服を着用するのは、死者と同じ服を着用することで、死の穢れをまとった者とそうでない者を区別したと言われています。昔に人たちは死の穢れを畏れましたので、遺族とそうでないもので衣服を分けることで、穢れをその家の中で封じ込めようとしたと言われています。
しかし、西洋では弔いの色は黒でした。喪服の色が黒に変わった理由もここにあり、明治以降、西洋の礼服文化が日本に流入したからです。時代が下るごとに、白の喪服から黒の礼服(洋装)へと次第に変わっていき、貴族から庶民へ、都市部から地方へと、喪服の色は徐々に変化していきました。
さて葬具が白であるのはもうひとつ物理的な理由、つまり、葬具が「急ごしらえ」でなくてはならなかったからです。位牌で考えると一番分かりやすいでしょう。人はいつ亡くなるか分かりませんが、亡くなったらすぐに葬儀をしなければなりません。亡くなってから葬儀までの短時間では、木地を彫刻して漆を塗り文字を彫って位牌を作る…というような作業はとうていできません。ですから白木で位牌をかたどり、裏表に筆で戒名などを書いた仮の位牌を用いたのです。これは祭壇や葬具でも同じことが言えます。
四十九日法要までの期間で、末長く祀ることのできる仏壇や位牌を用意して、急ごしらえの白の葬具たちはお役を終えていきます。
3 位牌(本位牌)の構造・機能による種類
位牌と言えば、台座の上に乗った木の札板を連想しますが、実はそれだけではないさまざまな位牌があります。この章では、構造や機能の面から見た位牌の種類をご紹介いたします。
3-1 板位牌
もっとも一般的なのが、板位牌。札板と台座で構成されています。表面には故人の戒名、裏面には命日や生前の名前や年齢を記します。ひとつの位牌で一人を祀る1人彫り、夫婦を祀る2人彫り、その他、3名以上の連名にすることもありますし、「〇〇家先祖代々」として、古いご先祖様の集合体として祀ることもあります。大きさは札丈が3寸~大きいもので7寸程度、寺院ものとなると1尺(10寸)を超える大きいものまでさまざまです。
3-2 くり出し位牌(回出位牌)
くり出し位牌とは、複数の札板を中に収納できる位牌のことです。1つの位牌で8名から10名程度のご先祖様を祀ることができます。表面が扉になっているものは、開くことによって最前面に置かれた札板が見えるようになっています。箱状になっており上に蓋があるものもあります。札板は白木のものが多く、名前などは筆で書きます。塗りの札板で、文字彫刻をして名前を記すものもあります。
3-3 過去帳位牌
札板ではなく過去帳を納めて祀る位牌です。構造はくり出し位牌と同じ作りになっており、中に過去帳と呼ばれる、先祖の戒名や命日などを記すことのできる帳面を納められます。
4 さまざまな様式と素材・デザイン
どれも同じように見える位牌でも、詳しく見比べてみると台座の様式の違いや素材、デザインの違いなどあり、実にさまざまで奥が深いものです。その一端をご紹介します。
4-1 台座の様式
位牌は札板と台座という構成でできていますが、この台座にさまざまな様式があります。全国的によく用いられているのが、「春日」「連付春日」「勝美」「葵角切」「呂門型」、近畿地方で選ばれているものに「京中台」「千倉座」などがあります。そのほか、さらに高級な位牌になると「五重座」「七重座」「出高欄」など、台座の種類だけでもたくさんあります。
4-2 塗り位牌と唐木位牌
一般的には位牌は木でできていますが、表面仕上げの違いから、主に2つの種類に分けられます。塗りと唐木です。
塗り位牌
塗り位牌とは、ヒキなどで木地の上から漆塗りなどの塗装を施した位牌のことです。漆塗り(または漆塗り風)と金箔(あるいは金粉)が特徴です。塗の部分は黒が主流ですが、中には溜塗りなど、少し赤みがかった色のものもあります。漆は現在大変希少なものなので、カシュー塗料による刷毛塗りやウレタンの吹き付け塗装など「漆風」のものが主流です。
しかし高級品はいまでも本漆を用い、塗りの行程も丹念に何度も何度も塗りを重ねます。また、「ロイロ塗」と呼ばれる最高級の技法もあり、これは蝋色漆で塗られた表面を、胴擦り、炭研ぎ、鹿の角粉などを、手のひらや指先を用いて丁寧に何度も繰り返し塗っていきます。表面では見えない凸凹をさらに平らに磨き上げていくことで、漆独特の深みと艶が表れてきます。
塗り位牌のもうひとつの特徴は金の装飾です。面取りした部分に金箔を押す「面金」、金箔の上に金粉を蒔く「面粉」、すべての面に金箔を押す「総金」、すべての面に金粉を蒔く「総粉」などがあります。
唐木位牌
唐木とは、紫檀や黒檀などの銘木のことです。これら唐木の無垢材で作られた位牌を唐木位牌と呼び、木目の美しさが特徴です。塗り位牌に比べると種類や仕上げの方法が限られますが、どっしりとした重厚感と落ち着きが人気です。
4-3 モダンな位牌
モダンなデザインの家具調仏壇にあわせたモダンな位牌が人気を集めています。板位牌でも、台座のデザインをシンプルにしたもの、蒔絵を施したもの、カラフルな位牌などさまざまです。ウォールナットなどの洋材の位牌や、ガラスやクリスタルのものもあります。
4-4 位牌の産地
国内における位牌の産地は、会津(福島)、名古屋、京都、高野(和歌山)が挙げられます。また、安価な位牌は中国産が主流になっています。
会津(福島)
戦国武将・蒲生氏郷によって会津の伝統工芸となった会津塗。その流れを今も受け継いでいる会津は位牌の一大産地です。主に東日本への出荷が多く、春日、勝見、葵角切、猫丸などが作られています。
名古屋
名古屋は東京と京都の中心に位置しつつ、昔から国内有数の都市であったため、仏具の職人が数多くいる土地です。関東地方で好まれる位牌だけでなく、京型位牌や高野位牌など、さまざまな形のものが作られています。
京都
古くから日本の都だった京都。木地師、塗師、箔押師、蒔絵師、蝋色師など、いまでも一流の職人が集まるのが京都です。京中台、京千倉、京呂門、七重座、五重座などがあります。
高野(和歌山)
高野山は古くから「日本総菩提所」として、宗派を問わずさまざまな人々の納骨の場として知られています。いまでも奥の院へ続く参道には歴史上の戦国武将や有力者たちのお墓が所狭しと並んでいます。そんな信仰息づく高野。昔から、中京地方をはじめ、関西や中四国など主に西日本に流通しています。
中国
戦後は位牌だけでなく仏壇や仏具の製造は中国が主力となっていきました。人件費が安いためにコスト削減に一役買うのですが、やはり品質は国内品に比べて劣るでしょう。
5 位牌の選び方、購入時の注意点
位牌を買おうと思って仏壇店を訊ねてみると、さまざまな種類の位牌がたくさん並んでいます。インターネットで調べてみようものなら、種類はさらに多く、どれを選べばいいのか分からないものです。位牌は、どのような考えに基づいて選べばよいのでしょうか。
5-1 家に位牌がある場合
すでにご先祖様の位牌が家にある場合は、それに合わせたものを購入するのが望ましいでしょう。形や大きさを合わせた方が仏壇の中で祀る時に調和がとれます。
一番よいのは、いまある位牌を仏壇店に確認してもらうことです。可能であれば現物を見てもらいましょう。というのも同じ形状、同じ大きさでも、細かい仕様が異なることが多々あるからです。たとえば、「千倉座4寸」でも、金の仕様が面金なのか、面粉なのか、三方金なのか、塗も並塗りなのか上塗りなのか蝋色塗りなのか、細かい違いがあるからです。
現物を見てもらえないようであれば、位牌の寸法を測って、写真を表と裏の両面を撮って、仏壇店に向かいましょう。位牌の寸法は必ず次の箇所を測ります。
- 札板の高さ
- 札板の幅
- 位牌全体の高さ
また、位牌も同じものを特定できるよう、次の画像を用意します。
- 位牌全体の写真
- 札板の表と裏(文字の確認のため)
- 台座の表と裏
5-2 はじめて位牌を購入する場合
はじめて位牌を購入する場合は、おそらく仏壇が家にない、という人がほとんどでしょう。位牌はデザイン、大きさともに仏壇にあわせて考えます。まずはどのような仏壇を購入するのかを決めて、それから位牌を選びましょう。適正なサイズは仏壇店に相談するとよいでしょう。
戒名と文字の入れ方
位牌には故人様の戒名、生前の名前、命日、年齢などを記します。戒名や、位牌への文字の入れ方などについてはこちらの記事をご参照ください。
仏壇・墓石の素心は、兵庫県下の3店舗(加古川本店・姫路店・高砂店)を拠点に日本全国に展開する仏壇・墓石・寺院仏具の専門店。伝統様式からモダンまで、あらゆるタイプの仏壇仏具が取りそろう。各店舗ではさまざまなセミナーや教室も開催され、地域の人たちの”祈り”を支える仏壇店としても親しまれている。インターネット販売にも注力。遠方であれば楽天市場店でのオンライン購入も可能。
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