不動産の相続登記はいつする?誰がする?しないとどうなる?

相続する財産の中で金額的に大きな割合を占めるものは不動産、というケースが多くあります。相続する不動産は、亡くなった方(以下、被相続人)が住んでいた家屋や土地が主なものですが、それだけでなく被相続人名義の山林や事業用の土地、または人に貸していた土地やビルなどもあります。これらの不動産は遺言や遺産分割協議の結果をうけて「私が相続したので、不動産の所有者が変わりました」という相続による所有権移転登記(以下、相続登記)をします。

ところが実はこの相続登記は、登記手続きの期限が決められていません。被相続人の死亡から10か月以内、と決められている相続税の申告のようにしっかりとした手続き期限が無いのです。では相続登記は気が向いた時にすればいいのでしょうか?今回は不動産の相続登記が必要な理由と相続登記をしないとどんな問題が起きるかについてお伝えいたします。

用語の定義
  1. 被相続人:財産を残して亡くなった人。この人の財産を分けるのが遺産相続。
  2. 法定相続人:民法によって定められた被相続人の財産を相続する権利を持つ人。被相続人との婚姻関係や血縁によって決まる(例:配偶者や子どもなど)。詳しくはこちらの記事をご参考ください。
  3. 相続人:一般的には相続人=法定相続人と解釈されている。稀に相続人=法定相続人+法定相続人以外で財産を受け取ることになった人や団体、と何らかの形で遺産を受け取る人や団体全体をさす場合がある。
  4. 遺贈者:遺言により財産を与える人。ただし「遺贈者」と表現されるときは、法定相続人以外の人や団体(例:お世話になった医者や介護士、病院や大学など)に対して、遺言によって財産を贈る意思を表明した場合を指す。生前に遺贈することを受遺者に告げる必要はない。
  5. 受遺者:遺言により指名されて財産をうけとる法定相続人以外の人、団体。遺贈者の生前に、自分が受遺者となることは知らされていないことが多い。
  6. 共同相続人:法定相続人と受遺者をあわせた、遺産を受けつぐ権利のあるもの。
index 目次
  1. 1. 相続登記とは
  2. 2. 相続登記の期限は?
  3. 3. 相続登記をする義務は誰にある?
  4. 4. 相続登記の書類はどこに提出する?
  5. 5. 相続登記をしないとどうなるの?
  6. 6. 数次相続とは
  7. 7. 相続登記をしないと社会的な影響はあるの?
  8. 8. まとめ

1. 相続登記とは

被相続人が残した財産は、土地や建物といった不動産があるケースが多くみられます。こうした不動産については、被相続人が残した遺言によって法定相続人や受遺者が受け継ぐ、または法定相続人全員による「遺産分割協議」の結果により、誰がどの不動産をどのくらい相続するかを決めます。

この相続する不動産はどのくらいの価値があるのか、という価値の決め方については別記事でご説明しておりますので、そちらもご参照ください。

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さて遺言もしくは遺産分割協議によって、どの不動産を誰がどのくらい相続するかが決まったら、不動産を相続した人は「私が相続したので、この不動産の所有者が変わりました」という申告をその不動産の所在地を管轄する法務局にてしなければなりません。これを「相続による所有権の移転登記」と呼びます。一般的にはこれを「相続登記」と呼びます。相続によって発生した登記だからです。

2. 相続登記の期限は?

相続登記の期限については明確な規定がありません。そのため「まあ、もう少ししてから」「手が空いたら」「その気になったら」と先延ばしにしてしまう方も多くいます。しかしその不動産を誰かに売却したい場合や、不動産を担保にしたい場合には早々に相続登記が必要です。相続登記をしないと、いつまでもその不動産は既に亡くなった被相続人の持ち物であり続けるので、売却したり、担保を設定したりすることができないからです。

3. 相続登記をする義務は誰にある?

相続登記の義務はその不動産を相続した人、または団体にあります。被相続人の出生から死亡までの戸籍を揃えたり、場合によっては家族関係図を提出したり、遺言書や遺産分割協議書を添付するために、登記の専門家である司法書士にお願いするのが一般的です。司法書士に依頼をすれば、費用はかかりますが、自身の手間はおさえられますし、間違いの心配もありません。

とはいえ不動産登記手続きには国家資格は必要ありませんので、手間や時間はかかりますが、ご自身でも登記手続きをすることはできます。法務局のウェブサイトに必要な書類の原稿や書き方、また裏付け資料として必要な書類について詳しく書かれています。

なお、相続登記については別記事でもご紹介していますので、下記ご参考になさってください。

4. 相続登記の書類はどこに提出する?

相続登記の書類は、相続する不動産の所在地を管轄している法務局に提出します。現住所から離れた土地や建物、さらに山林や事業用の土地についても、それぞれの所在地ごとに管轄する法務局を調べて提出しなければなりません。持参が難しい方は郵送でも受け付けていますので、まず所管する法務局を調べて問い合わせをするところから始めましょう。

相続登記の手続きで注意するべき点としては、もちろん相続登記に関係する書類一式を全て揃えて出すこともあります。しかし意外に忘れがちなのが「登録免許税」です。これは相続する不動産の価値によって決まります。その金額相当の収入印紙を購入し、相続登記の申込書に貼って納付します。管轄法務局に直接出向く場合は提出の際にその場で収入印紙を購入すればよいわけですが、遠方などで郵送する場合は、登録免許税分の収入印紙まで貼った状態で所管の法務局に送付しなければいけないため、あらかじめ収入印紙を購入する必要があります。

この場合、200円程度の収入印紙であればコンビニエンスストアで売られていることもありますが、1万円、5万円、10万円単位の高額な収入印紙はコンビニエンスストアでは手に入りにくいでしょう。地元の郵便局や法務局で購入することをお勧めします。

5. 相続登記をしないとどうなるの?

相続登記をしないでいても、何も罰則はありません。罰金もなく、税金が高くなることもないので「まあ、もう少ししてから」と、つい相続登記を後まわしにしてしまいがちです。けれども相続が決まったらできるだけ早く相続登記をしないと、様々な問題が発生します。 ここで世代別に相続登記をしないことによる問題点を見ていきましょう。

売却できない・担保にできない

被相続人から不動産を相続した世代が相続登記をしないでいると、その相続した不動産を売却したり、不動産を担保にしたりすることができなくなります。なぜなら相続した不動産の所有者名は相続登記をしない限り、故人である被相続人の名前のままだからです。「この不動産は被相続人から相続した私のものです」と相続登記をして、所有者の名義を書き換えることによって、初めてその不動産は相続人のものになります。自分の代で相続した不動産を売る、担保に入れるなどをしたい場合には、相続登記を早めにしましょう。

孫世代に負担を残す

被相続人の子の世代が被相続人世代から不動産を相続したのに、相続登記をしないまま死亡してしまった場合など、一つの相続登記を済ませる前に次の相続登記が生まれることを数次相続(すうじそうぞく)と呼びます。この数次相続になると、被相続人の子の次の世代(=孫世代)に大きな負担がかかります。

孫世代が複数人で親世代が相続登記していなかった1つの不動産を相続、さらに登記する場合を例に考えてみましょう。親世代がするべきだった手続きを、孫世代の誰が中心となって進めるのか、さらにそこで発生する登録免許税などの諸費用をどう分担するのかを決めなければなりません。相続権利保持者の数が多くなると、これをまとめるだけでも大変です。また孫世代から遠い存在の祖父母世代について各種書類を取りそろえる難しさもあります。

このように適切な時期に相続登記をしないでいると、後の世代に大きな負担を強いることになりますので、いくら期限が決まっていないとはいえ、自分が不動産を相続することになったら、できるだけ早く相続登記をするようにした方がいいですね。数次相続については次の章で詳しく解説いたします。

6. 数次相続とは

ここで先にも少し触れた数次相続(すうじそうぞく)について解説します。数次相続とは、相続登記をしないままでいるとその状況になりがちなものですが、不動産に限らず、被相続人の遺産相続が開始したあと、「遺産分割協議」などの相続手続きが完了しないうちに相続人の1人が死亡してしまい、次の遺産相続が開始されてしまうことを言います。数次相続では最初の相続を1次相続、次の相続を2次相続、その次の相続を3次相続と呼びます。

1次相続

まず1次相続について説明しておきましょう。Aという被相続人(故人)に配偶者Bと長男C、次男Dがいたというケースを想定します。この場合通常、被相続人の相続財産について行う遺産分割協議は、法定相続人である被相続人の配偶者と子供2人で行います。これだけで相続が終わるので1次相続と呼ばれ、相続人と法定相続分による相続割合は以下の通りです。

相続人 相続割合
配偶者B 2分の1
長男C 4分の1
次男D 4分の1

さて、数次相続の状況が発生するパターンには大きくわけて2つあります。

数次相続:相続人のうち、配偶者以外が死亡した場合

先の1次相続のケースで、もし次男が相続登記を終了する前に死亡してしまったら、どうなるでしょうか。

1次相続で次男Dが受け継ぐはずだった被相続人Aの財産の4分の1を、今度は次男Dの家族で分け合います。この場合次男Dの配偶者EはDの遺産の2分の1を相続するので、つまりAの遺した分についてはその8分の1を相続します。次男Dの子どもたち(Aの孫たちF、G、H)はそれぞれDの遺産を6分の1ずつ相続するので、つまりAの遺した分についてはその24分の1をそれぞれ相続します。

ここで被相続人Aの残した相続財産が数次相続の結果、誰にどれだけ相続されるのかを確認しましょう。

相続人 祖父の遺産の相続割合 何次相続か
配偶者B 2分の1 1次相続
長男C 4分の1 1次相続
次男D(死亡、2次相続被相続人) (4分の1) 1次相続
次男Dの配偶者E 4分の1×2分の1=8分の1 2次相続
次男Dの長男F(=孫) 4分の1×6分の1=24分の1 2次相続
次男Dの次男G(=孫) 4分の1×6分の1=24分の1 2次相続
次男Dの長女H(=孫) 4分の1×6分の1=24分の1 2次相続

数次相続:相続人のうち、配偶者が死亡した場合

次に被相続人Aの配偶者Bが、相続登記を済ませる前に亡くなった場合をみていきましょう。

長男C、長男Dにとっては、母親が相続手続きを完了する前に死亡した場合に、2次相続が発生します。

相続人 被相続人Aからの相続割合
長男C Bの2分の1の2分の1=4分の1
次男D Bの2分の1の2分の1=4分の1

そして1次相続と2次相続を合計すると以下の通りとなります。

相続人 被相続人Aからの相続割合
配偶者B (2分の1)
長男C 4分の1+4分の1=2分の1
次男D 4分の1+4分の1=2分の1

このように最終的には子ども二人が父の遺産を2分の1ずつ受け継ぐことになります。

登記は相続が発生するたびにしなければならないのか

相続登記は、発生順にするのが原則です。ですから、被相続人の配偶者が相続登記をする前に亡くなった場合でも、1度目は1次相続分として配偶者、長男、次男が相続した登記を、さらに続いて2次相続分として1次相続の際の被相続人配偶者から長男、次男へという登記が必要になります。

「中間相続人が単独」である場合の例外

しかしこれでは相続登記のたびに発生する登録免許税を何度も支払わなければなりません。そこで例外が認められています。1次相続の際に祖父母世代から不動産を相続した親世代(これを中間相続人と言います)が1人(単独)であれば、祖父母世代から親世代、そして親世代から孫世代への相続を1つの相続登記書類ですることができる、というものです。1つの書類で2回の相続分を登記できるということは、登記のたびに発生する登録免許税を1回分で済ませることができます(昭和30年12月16日付け民事甲第2670号民事局長通達)。

なお中間相続人が単独である、というのは必ずしも祖父母世代の子(=親世代)が1人であることを意味しません。例えば祖父母世代の子どもが3人いても、2人が相続放棄した場合には中間相続人は単独になります。また遺言でA不動産を1人の子(=親世代)が相続するよう指定されていた場合も中間相続人は単独となります。さらに遺産分割協議でA不動産を1人で相続することになった祖父母世代の子(=親世代)場合も中間相続人は単独となります。中間相続人が単独であれば、その下の世代が複数でも相続登記は1回で済みます。遺産分割協議で親世代の死亡を挟んで孫世代が祖父の不動産を相続することになった場合も単独で相続するなら相続登記は1回で済ませることができます。

しかし中間相続人が複数であった場合には、祖父母世代から親世代と、親世代から子世代と2つの相続登記をしなければなりませんので注意しましょう。

7. 相続登記をしないと社会的な影響はあるの?

相続登記をしないままで放っておくと、被相続人の血縁関係者だけでなく、社会にも大きな影響があります。相続登記の放棄は日本でだんだん大きな社会問題となってきています。

地域の活性化ができない

相続登記をしていないと、土地の持ち主が誰だか判明できません。数次登記が重なった結果、何十人もの相続権利保持者が存在する場合もあります。そうなると例えば地域の活性化のため再開発事業をしたくても、誰に合意をとればいいのかわかりません。また相続権利保持者を見つけ出しても、一部が再開発に伴う買収に反対すると再開発事業全体が進まなくなることもあり得ます。

空き家の管理が行き届かず不用心になる

現在、多くの自治体でいわゆる「空き家問題」が課題となっています。空き家の手入れがされず、廃屋のようになるに従い、その土地に不法投棄がされることも珍しくありません。このように長い間空き家のまま放置されていると不用心だ、と周囲の住民から自治体に苦情が寄せられても、空き家も立派な私有財産なので簡単に撤去や整理をすることができません。

周辺環境に悪影響を及ぼしている「空き家問題」は多くの自治体の頭痛の種です。自治体によっては「空き家を適正に管理する義務」を権利保持者に求めています。その場合、仮に自治体が周辺住民からの要望を受けて空き家の取り壊しなどをした場合には、かかった費用負担を求める場合もありますから、空き家にしないように管理するためにも相続登記は早めにする方が良いでしょう。

都市計画や防災・減災の取り組みができない

相続人が不明な空き家があると、その土地の持ち主からの同意を得られないために道路の拡張ができない等、都市計画にも影響が出ます。さらに防災や減災の取り組みができない、災害復旧に時間がかかる、といった災害に強いまちづくりの障害になります。

農地・山林が放置されてしまう

相続人がわからない農地や山林が多くなると、自然にそこの手入れがされず、放置されてしまいます。このように手入れされていない山林は自然災害に弱く、防災上の問題となっています。また農地も放置されてしまい荒れ地になります。さらに農地を近隣農地と集約化して大規模農地にして運営することも難しくなります。

8. まとめ

相続登記は自分でできる、とはいえ添付する資料が大量にあるうえ、戸籍を取り寄せるなど手間がかかります。さらに締め切りもない上に罰則や罰金もないため、つい、後回しにしてしまいがちです。しかしここまで見てきたように「いつかやればいいや」と思っている間に相続人の一部が亡くなり、期せずして数次相続が発生することもあり得ます。こうなると意図的ではなかったにしろ、後の世代に大きな負担をかけてしまいます。

また相続登記をすることで、その血族間でのトラブルだけでなく、社会的なトラブルも防止することができます。相続財産のうち、大きな割合を占める不動産。これを相続したら、できるだけ早く相続登記をしましょう。

監修
アイリス綜合行政書士事務所
行政書士・FP 田中真作
早稲田大学法学部卒業。行政書士・FP・宅地建物取引士。2003年行政書士登録。
相続や離婚などの一般市民法務相談や各種許認可業務など幅広く対応。
田中真作のFacebookページ
Text by:西山千登勢
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