現在、人生の過ごし方は多様化しています。生涯未婚で過ごす方、子どもを持たない選択をする夫婦、子ども世帯と離れて暮らす親世帯などさまざまで、老後に一人暮らしをする人は増加しています。いつか自分の死が訪れたときに、周りの人へ迷惑をかけたくないと考える方もいるでしょう。

今回は老後に一人暮らしする方の生前整理の方法です。現在ご夫婦で住んでいる方も、いずれ伴侶が旅立たれた後は、一人で生活する可能性があります。自分の死後に離れて暮らす子ども達へ迷惑をかけたくない方や、現在独身で自分の死後に不安を感じる方は、ぜひこの記事を参考にしてください。

1.生前整理と老前整理

「生前整理」とは自分の死後、遺族が困らないために、生きている間に身の回りの持ち物を整理することです。整理することで遺族は死後の手続きや遺品整理をスムーズに行うことができます。

終活のひとつで同じような言葉に「老前整理」があります。老前整理は自分自身が老後を快適に過ごすために、老いる前に行う身の回りの整理のことです。
つまり自分の死後に遺族のために取り計らうのが「生前整理」、老後の生活を考えて自分のために行うのが「老前整理」です。

2.一般的な生前整理

一般的な生前整理では、つぎのような整理を行います。

持ち物の整理

必要なものと不要なものに仕分けして、不要なものは処分します。

財産の整理

所有している財産を把握し、遺族に伝えるために「財産目録」を作成します。不要な財産は処分したり生前贈与したりします。

重要書類や財産の保管場所を知らせる

自分の死後、遺族がスムーズに手続きできるように、重要な書類や財産の保管場所を伝えておきましょう。不動産や保険証書、通帳や印鑑など遺産相続に関係するものや、返却しなければならない保険証などはある程度まとめておきます。

遺言書やエンディングノートの作成

財産の処分方法や相続に関して希望がある場合は、遺言書を作成すると遺族間のトラブルを防げる可能性があります。形式に則って作成された遺言書は法的効力があるので、法定相続人以外や特定の人物に相続させたい場合に効果的です。

遺族へメッセージを残したい場合やお墓やお葬式の希望がある場合は、エンディングノートにまとめるといいでしょう。

3.一人暮らしの生前整理は「住居」がポイント

一人暮らしの方は、一般的な生前整理に加えてとくに「住居」をどうするかがポイントになります。居住スタイルによって対応が変わるのでくわしくチェックしましょう。

居住スタイル別ポイント

【賃貸物件に住む場合】

賃貸物件で一人暮らしの場合は、死後すみやかに相続人などが退去の手続きをできるように整理をしましょう。

借りている人が死亡した場合でも、相続人には部屋を明け渡すまで賃料を払い続けなければならない義務が発生します。死後すみやかに退去手続きができるように、契約書や大家さんの連絡先、ガス・電気・水道など公共料金の連絡先などをまとめておきます。

また死後に部屋の片づけを依頼できる人を考え、相談しておくことも大切です。相続人が複数いたとしても遠方に住んでいる場合は、近くに住んでいる親族や親しい友人に頼まざるを得ないケースもあります。

荷物も必要なもの以外はできるだけ処分し、スッキリとした環境での生活を心がけましょう。

【一戸建てに住む場合】

一戸建ての場合は土地と建物が相続対象となります。
死後に住む親族などがいない場合は、「中古住宅として売りに出す」「貸し出す」「更地にして土地を売却する」「そのまま空き家にする」などの選択肢があります。更地にする場合は物件にもよりますが建物の解体費用に100万円程度~がかかり、中古住宅として売りに出す場合も買い手が見つかるまでは固定資産税を払わなければなりません。管理やメンテナンスも必要で、費用も手間もかかります。

空き家になる場合は、空き巣の被害や不良グループや犯罪者のたまり場になる恐れもあります。不審者やホームレスが家に住み着く可能性もあるため、空き家は犯罪の温床や治安が悪化する原因にもなるのです。ポスティングされたチラシやダイレクトメールがあふれた郵便ポストは、空き家であることが一目瞭然なため、対策が必要です。

死後、建物をどうするか、相続人とあらかじめ相談して決めておきましょう。

【分譲マンションに住む場合】

分譲マンションの場合は、部屋自体が相続の対象となります。
死後に住む親族などがいない場合は、マンションの部屋を「売却する」「貸し出す」などの選択肢があります。空き家になる場合でも維持費や固定資産税は毎年払う必要があります。死後どうするか、相続人とあらかじめ相談して決めておきましょう。

同居する・賃貸物件に住むという選択も

老後に分譲マンションや持ち家に一人暮らしする場合は、自分が死亡したら空き家になる可能性があります。相続人が遠方に住んでいる場合などは管理や維持が大変です。
自分が生きている間に不動産を処分して、子ども世帯と同居したり、賃貸物件に移り住んだりするのもひとつの選択方法です。自分の老後のことをよく考え、相続人とも死後のことを相談した上で決めましょう。

相続人がいない場合、どうなるか

法定相続人がおらず、遺言書で受遺者の指定もない場合は、所有する不動産や遺産は「民法959条 残余財産の国庫への帰属(*1)」により、国に帰属されます。「生前お世話になった方へ遺産を遺したい」など相続の意思表示がある場合は、遺言書を作成しておきましょう。

(*1)民法959条 残余財産の国庫への帰属
前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

4.近い親族がいない場合は葬式・お墓の手配を自分でしておく

安心して任せられるような近い親族ががいない人は生前に自分の葬式やお墓の用意をしっかりしておくことも大切です。元気なうちに葬式やお墓など死後の憂いを無くすことで、安心して老後を暮らすことができます。

手配せずに亡くなった場合どうなる?

身寄りがない方が葬儀やお墓の手配をせずに亡くなった場合は、どうなるのでしょうか。

【交流がある場合】

地域との交流や何かしらのコミュニティに属している場合は、万が一孤独死した場合でも比較的早く発見してもらえる可能性がありますし、近隣者等が喪主をして葬儀を行ってくれるケースもあります。友人が取り仕切ってくれる場合もあるかもしれません。このような場合は、相続財産管理人(*2)が故人の相続財産からかかった費用を返還します。

*2 相続財産管理人とは
相続人が誰もいない人が亡くなった場合に、遺産の管理をする業務を行う人のこと。

【交流がない場合】

自ら手配しておらず、そして身寄りもおらず遺体の引き取り手がいない場合は、「墓地・埋葬等に関する法律第9条(*3)」により葬儀は行われずに地方自治体が火葬をします。遺骨や遺品は市町村が一定期間保管してから、遺骨は縁者のいない人が葬られる無縁塚に埋葬されます。

*3 墓地・埋葬等に関する法律第9条
死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。

生前に自分でできる、火葬・葬儀の手配(葬儀の生前予約)

いずれにしても、親族がいない、身寄りがない、っといった場合、自分で準備をしておかないと誰かしらに死後の弔いや手続き、片付けで大きな負担をかけかねません。できるだけ自分で準備しておきましょう。

葬儀社と生前契約することで、契約に従い自分の希望に沿った葬儀や埋葬を行ってもらうことができます。どのような葬儀にしたいか、だれを葬儀に呼びたいかなどを事前に決めることができます。

また、準備などを取り仕切ってもらいたい知人や友人がいるならば、あらかじめ当人に相談をしておきましょう。

お墓は永代供養墓の生前予約を

跡継ぎがいない、身寄りがいないという場合は「永代供養墓(えいたいくようぼ)」を選びましょう。「永代供養墓」とは、お墓の契約にあたって継承者を必要とせず、寺院や霊園が永代に渡って遺骨を供養・管理してくれるお墓のことです。

「葬儀」「火葬」「永代供養墓」がセットになった生前予約ができるプランも販売されています。死後の気がかりが無くなるので、老後も安心して過ごすことができるでしょう。